• 表情を見せるだろうか

    表情を見せるだろうか。 桂が会いたがってると言えば喜んでついて来たのだろうか。 『引き合わせた時にどんな顔になるか見物だよ。』三津は何度も深呼吸をして気分を落ち着かせて,しまい込んだ記憶を引きずり出した。 「彼は名前を新平と言って年は私より二つ上で料理人の見習いをしていました。 彼が最初に私を見つけてくれたんです。」 あれは雪のちらつく師走。 あと数日で一年が終わろうとしていた暮れに三津は一人で町に来た。 両親を亡くし頼る相手もいない。肺癌症狀為背痛咳嗽? 病徵逐個睇  一人でも生きる為に来たけれど田舎の娘は町の賑やかさに不慣れで,宿に入る事さえ躊躇して足は人気のない場所を求めた。 神社の石段に腰をかけて途方に暮れた。 お尻からも石の冷たさが伝わり,かじかんだ手は動かない。 そんな三津に声をかけたのが新平だった。 警戒していた三津に自分の羽織りを被せて冷え切った手を握り家へ連れて帰った。 家に行けば妹がいた。 名をふくと言い三津と同年だった。 新平とふくも両親がおらず二人で生活してきたと言う。 二人はせっせと三津の世話を焼き,働く場所としてあの甘味屋を紹介した。 初めは新平とふくの家から甘味屋へ務めに行ったが功助とトキの好意で甘味屋に住み込む事になった。 それからと言うもの新平は時間が出来る度に三津の様子を見に甘味屋へと足を運んだ。それから新平と三津の仲が深まるのに時間はかからなかった。 「俺はお前が好きや,お前は俺のことどう思う?」 耳まで真っ赤に染めながらぶっきらぼうにも想いを伝えてくれた新平が,三津には堪らなく愛おしく思えた。 「私も新ちゃんが好き。」 新平が三津にとって初めて出来た大切な人。 新平がくれる口づけも抱擁も全てが優しくて温かかった。 ふくも新平と三津の仲を喜んだ。 本当に家族だねと笑った。 新平とふくと出会わなければきっと今の自分はない。 二人は三津にとって恩人であり友達であり家族でもあった。 そして桜の花が咲き誇る春を迎えた。 新平に誘われ二人で花見に出かけた帰り道,幸せを壊す足音が近づいていたのを二人は気付かなかった。 いかにもがらの悪い連中に運悪く囲まれてしまった。 相手は目をぎらつかせ既に刀を抜いていた。 それに対して二人は丸腰,適うはずがない。 「三津逃げろ…。」 新平はぼそりと呟くと意を決して一人に体当たりをして道を開けた。 「新ちゃん!」 それは一瞬の出来事で,相手の刀が光ったと思ったら赤い飛沫が散った。赤い飛沫が舞い散ってから新平が崩れ落ちるのだけがゆっくりに見えた。 「新…ちゃん……。 嫌やあぁっ!」 逃げるなんて頭には無かった。 死ぬのが怖いとも思わなかった。 ただ愛する人がそれ以上傷つけられなうよう,地に伏した体に覆い被さった。 「止めて下さい!止めて下さい!」 無我夢中で泣き叫んでいると三津の背中にも熱い痛みが走った。 右肩から背中にかけて痛みを感じながらゆっくりと瞼を閉じた。 それ以降の記憶はない。 気付いたら自分の部屋でうつ伏せて寝ていた。 三津が目を覚ましたと聞いて真っ先にふくが駆けつけてくれた。 「みっちゃん! 良かった…起きてくれたんや。」 ふくは息を切らして駆け込んで来るなり,涙をぼろぼろ流しながらも笑ってくれた。 「新…ちゃん…は?」 うつ伏せた状態からゆっくりと体を持ち上げて布団に座り込んだ。 布団の脇に座していたふくはぎゅっと目を瞑って,首を横に振った。 『嘘や…。』


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