• 高杉はゆっくり手を伸ばし三津の頭をゆっくり撫でた。三津は頭を差し出してされるがままだった。

     

     

    「心配なんよなぁ,三津さんの支えになる筈の二人に三津さんが潰されやせんかと。加えて人の事ばかりに目を向ける三津さんじゃ。その優しさが仇になって周りに食い潰されやせんかと心配なんよなぁ。」

     

     

    頭を撫でてくる手の感触に三津の目からは涙が溢れた。

    父が最期に撫でてくれた時の記憶が蘇った。https://www.easycorp.com.hk/blog/complete-guide-company-incorporation-in-hong-kong/

     

     

    畑仕事で荒れた手だから触り心地の良いものとは言えなかったが,三津にとっては大好きな手だった。

    病に伏せてからの父の手はやせ細り骨のようで,荒れた手とはまた違った手になっていた。

    その手と,今頭を撫でてくる高杉の手が似ていると思ったら涙が止まらなくなっていた。

     

     

    高杉がもうすぐいなくなってしまうと実感して,哀しみが一気に満ちてきた。

    そして自分の体調よりも自身が旅立った後のこちらの事を心配してくれる。

     

     

    『高杉さんに心配かけたままお別れしたくない……。』

     

     

    三津は頭を撫でていた手を両手で握った。

    そして泣いてくしゃくしゃな顔で精一杯笑った。

     

     

    「大丈夫,私出来る。私は私を生きてける。」三津の決意を聞いた高杉は満足気に笑って頷いた。

     

     

    「少しずつでいい。何か一つだけでいい。

    今日は人の目気にせずあれが出来たや,自分の為にこれが出来たや。何だっていい。それを重ねて行けばそのうち自分を好きになれるやろう。

    自分を大切に。」

     

     

    「はい,そうすると約束します。」

     

     

    「いや,約束はせんでいい。もし守れんかったらその時は自分を責めるやろ?

    そんなんするぐらいなら約束なんかいらん。そんなもんに縛られるな。

     

    俺は好き勝手して何度も投獄されたが後悔なんぞしちょらんからなっ!

    俺がそうしたいと思って行動して結果的に周りからは叱責されても,俺は俺に従って動いた。やけん満足じゃ。なぁんも気にしちょらん。

     

    三津さんも自分で自分を満たしちゃり。どう生きるかを決めて動くのは自分やぞ。」

     

     

    三津は首を縦に振って応えた。それには高杉は歯を見せてにっと笑い,そして咳き込んだ。

     

     

    「高杉さんっ!ごめんなさいっ!沢山喋らせて……。」

     

     

    すぐに傍に寄って高杉の背中を擦った。すぐ横に控えていたおうのが白湯の入った湯呑みを差し出した。

    高杉は白湯を少し飲んでから三津の肩をぽんぽんと叩いた。

     

     

    「謝らんでいい。俺が喋りたくて喋った。俺の意思や。沢山喋れて俺は嬉しい。やけど長く引き留め過ぎたな,すまん。三津さんも帰らんと家事があるやろ。」

     

     

    それを聞いて三津は軽く首を横に振った。そして口角を上げた。

     

     

    「いえ,引き留められたんやなくて私がここに居たくて,高杉さんと話したくて留まっていたので問題ないです。私の意思です。」

     

     

    高杉の言葉の意味が分かった。高杉も嬉しそうに笑っていた。

     

     

    「今日はここで失礼しますね。」

     

     

    「おう,いつも来てくれてありがとな。気を付けて帰り。」

     

     

    高杉は見送りに出れんですまんなとまた三津の頭を撫でた。三津はお構いなくと笑っておうのにもお邪魔しましたと丁寧にお辞儀をした。

     

     

    「また来ますね。」

     

     

    そう言って部屋を出ようとした背中に高杉が声を掛けた。

     

     

    「三津さん,答えはいつも自分の中にある。」

     

     

    三津が振り返ると,高杉は今までに見た事のない柔らかい表情で微笑んでいた。

    三津もつられるようにやんわりと笑みを浮かべた。

     

     

    「はい,心に留めておきます。」

     

     

    それからもう一度深いお辞儀をして家を出た。

     

     

    『あと何回話せるやろか。この道何回通えるやろか。』

     

     

    一人でとぼとぼ家路を行くと,

     

     

    「こら,一人で出歩くな問題児。」

    「嫁ちゃん,迷子になる癖に放浪癖はいかんぞ。」

     

     

     

    呆れた顔の二人が帰ろうかと手を差し伸べてくれた。


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  • 「さっきあいつに逝ったら吉田に埋めてくれって言われて,改めて死期が近いんかって思わされた。 いい酒持ってこいだの言うやないかって勝手に思っちょったけぇ何っつうか……。すまん……。」 山縣は目頭を押さえながら上を向いた。その姿に三津と入江は頷きあって山縣の両脇に立った。 「私も何か冗談言ってくれるもんやと思ってました。でも……高杉さんちゃんと自分と向き合ってはるんですね。 それにやっぱり二人の事は信頼してはる。だから頼みはったんですよね。逝った後の事。」 「嫁ちゃん……泣かす事言ってくれるな……。」 「泣いたっていいやないですか。それだけ高杉さんとの絆は深いんでしょ?」 「そうやけどこんな道端で泣きたないんやっ!https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/7aa31b82aef965b9216da56dcee2d06a https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/04/28/050601?_gl=1*wgs9ae*_gcl_au*NjYyNTYyMDMxLjE3MDkwNDE3OTU. https://ameblo.jp/freelance12/entry-12850318179.html   !嫁ちゃん俺の涙止めてくれっ!!」 山縣は三津の方へ振り向いて思い切り抱きすくめた。泣き顔を見られないように。 耳元ですすり泣く声に,三津は赤子をあやすように背中を優しくとんとん叩いて擦った。 「おい,お前の汚い涙で三津の着物汚すなや。」 入江はそう言いながらも三津に笑みを投げかけた。こんなにも山縣が素直に感情を顕にしているのだ。ここは三津に託す他ない。 「情けねぇな……。今こんなんで本当にあいつが逝ったら俺どうなるんや……。」 山縣は怖くて堪らない。未だに信じたくない。あの高杉が本当に余命幾許もないなんて。高杉を失うのが怖い。「命が失われるのを見て平気な人なんていませんよ。しかも仲間ですよ?普通でおられんくて当たり前ですって。 皆さんは……ずっと前から何度もそれを乗り越えて来はったんですよね。頑張ってきたんですよね。」 「やけん何で泣かす事言うそっちゃ!俺は涙止めてくれって言ったそっちゃ!」 山縣は堪らず腕に力を込めた。三津は苦しい苦しいとその腕を叩いたが腕は緩まらなかった。 『あぁ……。山縣さんこれ以上私に喋らせたくないねんな……。』 これ以上踏み込まない方がいいなと判断した三津は優しく山縣の背中を撫でた。 「おい,それなら三津から離れろ。全て吐き出す根性ないならこれ以上は許さん。」 入江は容赦なく山縣の後頭部を拳で殴りつけて衣紋を引っ張った。 勢い良く後ろに引っ張られた山縣は“ぐえっ”と変な鳴き声を吐き出した。 それから乱暴に目を擦り,見てんじゃねぇとぼやいて一人で先を歩いた。 「素直やない。」 入江は小さく溜息をついてその背中について行った。三津も小走りで山縣を追いかけた。 屯所に戻った山縣は部屋に閉じこもってしまった。 「さっさと素直になって吐き出して楽になりゃええのに。まぁ三津を独占されたくないけぇええんやけど。」 『九一さんも山縣さんの事となると素直やないなぁ。』 縁側に腰掛け少し苛立ちを見せる入江を三津はふふっと笑った。 「何?」 何故笑われたんだと入江は眉根を寄せて三津を見た。 「九一さんがこうやって感情を全面に出してるんも珍しいから。よっぽど山縣さんが心配なんですね。」 「待って?私はいつも三津には感情を全面に出しとるやろ?何で伝わっとらん?こんなに好きが溢れとるのに?」 そう言って三津の腰に手を回してぐいっと自分の方へ引き寄せた。 「いやっあのそうやなくてですね?何って言うか兄上達と居た時と随分雰囲気が違うからっ。」 「そりゃ三津が本来の私を受け止めてくれるけぇ。こうなったのも三津のせいや。」 どう責任とってくれるの?と上目で甘えたように見つめられては三津はその目を直視出来ない。 両手で顔を覆ってすみませんすみませんと平謝りをした。 「お陰で私は随分楽になった。やけぇ有朋も早よ楽になりゃええのに……。」 三津が視界を閉ざしてる間に入江の腕に抱きすくめられた。 「三津にやから私も本音を言う。晋作がいつまで保つんやろうって不安や。日に日に痩せて顔色も悪くなっちょる。年は越せるんやろうかって……。」 そろそろ覚悟が必要か。入江はそう呟いて黙り込んだ。


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  • 三津にとって今でも理想の夫婦なのだ。文に贈り物をと共に出掛けた時を思い出す。あの時の久坂は文だけを頭に浮かべて文だけを想っていた。

    そして今も久坂の妻である事を誇りに思ってる文の愛が三津には尊敬に値する。

     

     

    ただもし桂と文が結婚していたら,文はあの男をどう扱ったんだろうかとも思う。

     

     

    「玄瑞と結婚出来たんは俺のお陰やからもっと敬ってもええのにな文の奴。」

     

     

    「積年の恨みはそんな簡単に晴れないですよ。ね?」

     

     

    三津に話を振られた入江はもう思い出させないでと項垂れた。そこで高杉はあ!っと声を上げた。

     

     

    「九一!俺はお前に裏切られた事忘れちょらんからな!!」

     

     

    「は?何の話や。」

     

     

    「酒の一件はお前も加担しとる癖に先生に俺を売ったやろが!!」 https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202404270001/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/0c10021efeec3f45c5359607273c9b1a https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/04/28/050441

     

     

    そう言えば側で囃し立てたのはこの男だったなと三津は白い目を向けた。

     

     

    「知らん。私は何もしちょらん。ただ先生に主犯は誰やって聞かれたけんお前やって言っただけや。」

     

     

    「共犯!お前共犯!!」

     

     

    「は?私は文ちゃん襲いたいと思ったこと微塵も無い。勝手に脱いで文ちゃんに迫ったのお前で私は巻き込まれた。そう,巻き込まれた。」

     

     

    先生もそれを信じてくれたのだから後はお前の信用問題だと冷たく言い放った。

    その時ずっと押し黙っていたおうのがゆらりと立ち上がり入江の前に立った。

     

     

    「おうのさん?」

     

     

    「入江様,過去の事ではありますが少々腹が立ちましたのでその脇差お貸しいただけません?」

     

     

    おうのの発言に高杉は凍りついた。「まっ待ておうの!今はお前だけの俺やろ!?な!?な!?」

     

     

    必死すぎる高杉の表情を入江と山縣は哀れだなと笑った。だが,おうのにとっては笑える要素は一つもない。

     

     

    「おうのさん,思ってる事ははっきり伝えていいと思いますよ。」

     

     

    三津が声をかけると,おうのは唇を噛み締めながらへの字に曲げて頷いた。そして高杉の前にすとんと正座した。

     

     

    「私は妾の分際です。だから自分の気持ちを表に出すのはおこがましいと思ってました。ですが……言わせていただきます。」

     

     

    おうのがこうして面と向かって物申すのは初めてなのか,高杉も真剣な顔で言ってみろと姿勢を正した。

     

     

    「私は高杉様を心よりお慕いしております。この気持ちは誰よりも強く深いと思っております。なので……私以外に高杉様の愛情が向いてしまうと嫉妬します。そこに愛情が無くとも誰かに触れる,楽しそうにしてる姿を見るのも嫉妬します。」

     

     

    おうのは声を震わせながら言葉を紡いだ。それを高杉は黙って受け止める。

     

     

    「こんな事言いたくはありません……。ですが……ですが……最期だけは,私だけを見ていただけませんでしょうか?私だけを女として……。」

     

     

    そう言いながら,はらはらと涙を流した。

     

     

    「奥様やご子息を差し置いて傍に居ながら,もっと愛情を寄越せなど貪欲にも程があるとは分かっておりますっ!

    でもっでも……。」

     

     

    「もういいおうの……。悪かった。もう泣くな……。こんな俺について来てくれて感謝しちょる。妻にしてやれんですまん。」

     

     

    高杉は両手で顔を覆って泣きじゃくるおうのを引き寄せて腕の中に閉じ込めた。

    おうのは腕の中で何度も首を横に振った。

     

     

    「妻にして欲しいと思った事はありませんっ……!こうして傍で,互いに想い合えるならそれで充分なんです。一つだけわがままを聞いてもらえるなら,私だけを見て欲しいです……。高杉様の唯一無二になりたいです……。」

     

     

    「おうのさん……。」

     

     

    みっともないと分かっているが止められないものは止められない。三津の方が号泣していた。必死に嗚咽を堪えながらの大号泣。

     

     

    「何で嫁ちゃんのが泣くそっちゃ……。」

     

     

    山縣が優しく落ち着け落ち着けと背中を擦った。

    それだけ三津も痛い想いをしてきたのだと思うと入江は胸が痛くてかける言葉がない。

     

     

    「おうの,安心せいや。もう俺にはお前だけや。やけん最期の最期までついて来い。見てみぃ。お前しか映っとらんやろが。」

     

     

    高杉はおうのの顔を両手で挟んでぐっと顔を寄せた。

     

    おうのは涙で揺れてはっきりしない視界の中で,高杉の目の中に居る自分を見た。


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  • 「九一さんありがとう。私分かりました。もう納得しました帰りましょう。」

     

     

    そう言って笑顔を向けたが,今にも涙が溢れそうで,すぐに顔を俯かせて三津は海に背を向けた。

     

     

    「嫁ちゃんっ!」

     

     

    自分の横を通り過ぎて足早に立ち去ろうとする三津に山縣が寄り添って,入江はその後ろを歩いた。

     

     

     

     

    「何であんなきつい言い方したそ?確かに嫁ちゃんお節介な所あるけど別に自己満足でやりよるんやないやん。」

     

     

    屯所に戻り部屋に篭った三津を心配しつつ,山縣は入江の後を追って自室まで入り込んだ。

    壁にもたれて胡座をかく入江の前に仁王立ちであの言葉の真意を聞き出そうとした。

     

     

    「それは分かっとる。でも今回みたいな問題にわざわざ三津が飛び込む必要ない。」

     

     

    入江は顔を背けて山縣の方を向く事はなかった。https://classic-blog.udn.com/3bebdbf2/180552892 https://carinaa.blog.shinobi.jp/Entry/5/ https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-91.html

     

     

    「それはそうでももっと優しい言い方あったやろが。お前らしくない。」

     

     

    呆れたような溜息と共に吐き出された言葉に入江は視線だけ寄こした。

     

     

    「お前の言う私らしいって何よ。三津は理解したそっちゃそれでいいやろ。もう出てけ。」

     

     

    「あ?嫁ちゃん涙目やったやろが。泣かせといてなんやそれ。」

     

     

    山縣は本当にお前とは反りが合わんと吐き捨てて三津のもとへ向かった。

     

     

    「嫁ちゃーん……。」

     

     

    山縣はそっと戸を開けて中の様子を窺いながら小声で呼びかけた。

     

     

    「はい,どうしました?」

     

     

    三津は笑顔で山縣を迎えた。でもその目は赤くなっていて山縣は複雑な表情を浮かべた。

     

     

    「大丈夫?泣いとったんやろ。」

     

     

    山縣は中に踏み込んで戸を閉めてから優しく三津の頭を撫でた。

     

     

    「大丈夫ですよ。私は昔から泣き虫なんです。」

     

     

    そう言ってへらへら笑う三津の顔を山縣は両手で挟んだ。「傷付いたならそう言えばええやろ。何笑っとるそ?」

     

     

    ぐっと顔を寄せられ真剣に叱られてしまい,三津はしゅんと眉尻を下げた。

     

     

    ……傷付いたんやないんです。九一さんが言わはった事がもっとも過ぎて感情が混乱してもただけです。」

     

     

    またへらっと笑ってしまったから,山縣もまた渋い表情を浮かべた。

     

     

    「俺は入江の言った事に納得いかん。入江は嫁ちゃんは理解したって言いよったけど納得いかん。あと言い方も気に入らん。」

     

     

    「そっかぁ……。納得いかんのですかぁ……

    あの……とりあえず座ってお話しましょうか。」

     

     

    両手で顔を固定され,至近距離で見つめ合ったままでは心臓が保たない。一旦離れたい。

    山縣は渋々手を離し,腰を下ろして面と向かい直した。

     

     

    「まず九一さんの言い方は,何にでも首を突っ込む私の性格を考えてやと思うので私は気にしてません。」

     

     

    と言った所で山縣が納得するはずもなく,渋いままの表情に苦笑いをしつつ三津は続けた。

     

     

    「それと,二人の為と言いながら自分の為やって言われた事には私は納得しかないんです。

    自分ではそんなつもりは一切ありませんでした。今回の件も誰も傷付かず丸く収まる方法はないんかって思ってました。」

     

     

    「うん,分かっとる。嫁ちゃんは損得勘定や自分の利益の為動く子やないんは分かっとる。どっちかと言うといっつも損しちょるからな。」

     

     

    『損してるつもりもないけどな……。』

     

     

    と思ったが話が頓挫しそうなので胸の内にしまっておいた。

     

     

    「九一さんには前にもあっちの関係はあっちで責任取らなアカンって言われてたし,私も口出していい問題やないって分かってたんです。

    それでも問題を解決したいって言うのは私の欲です。おうのさんにも雅さんにも頼まれてないのに。」

     

     

    山縣の表情を覗いながら言葉を並べた。口はへの字に曲がっているが胸の前で腕組みをして黙り込んでいる。

    こっちの話を受け入れようとする姿勢が見えて三津はほっとして話を続けた。

     

     

    「それで,九一さんにあぁ言われて何で私が問題解決にこだわったのか自分なりに理解したんです。

    私は私が間違ってないと思いたかったんです。

    自分の今の立場を正当化したかった……。」

     

     

    また目に薄っすらと涙が浮んでしまった。それが零れ落ちる前に三津は話し切ろうと頑張った。

     

     

    「丸く収めて,今の立場に居る私やからこの問題を解決出来たって思いたかったんです。

    だからどっちつかずの私でいいって思いたくて……。そんな勝手な理由です。つまりは自分の為なんです。」

     

     

     

    結局は罪悪感を捨てられない自分の為。


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  • 自分も木戸の妻だ。だが武士の妻とは何なのだろう。それだけが頭に浮かんだ。雅は会釈をしてまた我が子の手を引いて歩き出した。 三津は立ち尽くして親子の背中を見送るしか出来なかった。それからとぼとぼ屯所の中へと戻った。 肩を落として戻って来た三津の頭を,入江はただ黙って撫でた。その優しい手の動きに三津の涙腺は崩壊した。 何の涙か分からない。混ざり合った色んな感情が込み上げて溢れ出した。 「どうした嫁ちゃん……。」 三津の泣く声を聞きつけた山縣も優しく背中を撫でてやった。 三津は泣きじゃくり,何度も両手で涙を拭って顔を上げた。https://www.liveinternet.ru/users/johnsmith786/post504877489/  https://www.bloglovin.com/@johnsmith4486/12581793 https://johnsmith123.pixnet.net/blog/post/148063774  そして入江の背後に悲痛な顔で佇むおうのを見て,余計に視界がぼやけてしまった。 「いつも傷付くのは女やな……。」 入江が呟くとおうのもぼたぼた涙を流した。 「私のせいで雅さんと梅の進ちゃんは高杉様のお傍に居られないんですよね……。私はお二人に何とお詫びすればっ……。」 おうのはその場に膝をついて泣き崩れた。 自分は雅の足元にも及んでなかった。まざまざと本妻の威厳と風格を見せつけられた。 「おうのさん,落ち着いたら晋作の所に戻っちゃり。雅さんがここに来られたって事は晋作の親はもうあっちには居らんやろ。それに勘当されたなら晋作が頼れるのはもうおうのさんだけやけぇ。」「呼べるもんなら呼んでみ。」 入江は挑発的に横目で山縣を見た。 今朝,伊藤が急遽遠方へ出向く羽目になったとぼやいていたのを知っている。だから邪魔者はいないのだと分かっているのだ。 「お前立場を弁えると言っただろうが。なぁ?参謀。」 その声に入江は瞬時に三津から飛び退いてピンと背筋を伸ばした。桂より質の悪い相手が現れてしまった。 「またお仕事放棄して市中散策ですか?」 三津は苦笑して,胸の前で腕を組んで仁王立ちの元周の方へ体を向けた。何とも絶妙な所で現れたもんだ。 「違う。松子はいつも我が遊び回っとると思っとるのか?今日は職務のついでに高杉の様子を見に行って来たところだ。」 「うわぁ高杉今日は厄日か。」 「山縣,どういう意味だ。」 『今日も山縣さんは山縣さんやな……。』 怒りに満ちた顔で詰め寄られる山縣を三津は哀れみの目で見つめながら心の中で手を合わせた。 自分から注意がそれた事に安堵した入江は,墓穴を掘った山縣を心の中で笑った。 そんな二人に元周は鋭い視線を向けた。気を緩めていた二人は一瞬で表情を引き締めた。 「松子,何かあれば私を頼れと言ったのに何故頼って来ん。」 「あー……。特に困るような事もなく……。」 無理くりにでも用事を作って出向くべきだったかと反省した。元周の所へ行こうが行くまいが結局面倒臭い事この上ない。 「高杉も似たような事言っておったわ。」 元周はふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。その仕草が三津には拗ねてるように見えた。 「高杉さんも天邪鬼ですし素直に頼るような人やないですからね。でも元周様のお気持ちは嬉しく思ってると思いますよ?」 「さぁ?どうだか。」 『本当に面倒臭いな。』 三津はこれが藩主様じゃなければ舌打ちをしてるところだったと思った。 「元周様に優しくされるのがこっ恥ずかしいと言うか照れくさいんちゃいます? それに一つ言うと,元周様は常にみんなから頼られてますよ。この町の人達は活気に溢れて暮らしてます。住み良いのが表情に出てます。 それは藩主様である元周様のお陰でしょう?だからみんな元周様を頼りにしてます。 だからここで油売らんとお戻りになって。」 三津はこれでもかと言う満面の笑みで元周の顔を覗き込んだ。 「本当に……お前は大した人たらしやな。松子に免じて今日は勘弁してやる。」 元周はビシッと入江と山縣を指差した。 「松子,木戸に飽きたらいつでも来い。我の方がいい男やぞ?」 「元周様,千賀様に言いつけますよ?」 三津は満面の笑みで言い放った。


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