• 「…お待たせ致して申し訳あ

    お待たせ致して申し訳ありませぬ!ちょうど小姓たちが境内の清掃をしておりまして、井戸端が混雑していたものですから」 

     

    と弁解しつつ、振動で波立つ盥の水を静かに差し出した。 

     

    「ご苦労様であったな」 

     

    濃姫は労うと、自らの懐からを取り出して、それを水に浸し、力強く絞った。 

     

    ──さ、姫。これで楽になりますからね」 

     

    濃姫は朗らかにうと、敷物の上に寝かせている、目の前の我が子の脚の付け根に、濡れた袱紗をそっと当てた。https://sitenum.com/debsy.com https://diigo.com/0x677w https://rodney.bravesites.com/entries/general/%E3%81%97%E3%81%8B%E3%81%97%E7%9A%86%E3%81%AE%E4%BA%88%E6%83%B3%E3%81%AB%E5%8F%8D%E3%81%97%E3%81%A6

     

    気持ちが良いのか、小さな姫は右手、左足を動かしながら、キャッキャッと笑った。 

    「軽いのようじゃな。どうやらの中が汗で蒸れておったらしい」 

     

    「まあ、それはお可哀想に」 

     

    「汗疹の時は清潔が第一じゃ。後で肌荒れに良い湯に入れるのも良いやも知れぬな」 

     

    濃姫は言いながら、我が子の脚の付け根にふーっ、ふーっと息を吹きかけた。 

     

    「汗疹のところは衣を被せぬようにして、後はこのまま様子見じゃ。あまり構い過ぎると逆にひどくなる故」 

     

    濃姫は手当てを済ませると、赤子をそっと抱き上げて「よしよし」とあやした。 

     

    「姫はまことに強い御子じゃ。汗疹で辛いはずなのに、泣きもぐずりもせず、ほんに我慢強いのう」 

     

    「それにおはお健やかそのもの。さすがはあの殿と、道三様のお血筋にございまする」 

     

    「三保野もそう思うか? 私も左様に感じておったのです。片方の手足がないという障りがありながらも、かように健勝なのは殿や父上の血筋故であろうと」 

     

    濃姫の言葉に三保野は小さく首肯すると 

     

    「そしてお顔立ちがお美しいのは、母上である姫様譲りにございましょう」 

     

    赤子の顔を見つめながら、どこか誇らしげに言った。 

     

    三保野の言う通り、顔立ちがはっきりし始めた赤子の面差しは、目鼻立ちが整っていて何とも美しい。 

     

    涼しい目元など、母である濃姫に瓜二つである。 

     

    「いいえ。姫が美しいのは、それこそ殿のお血筋であろう。美形揃いの織田家の血を引いておるが故じゃ」 

     

    思わず苦笑する濃姫に、三保野は大きくかぶりを振った。 

    「左様なことはございませぬ。お目は姫様そっくりにございますし、道三様もお若き頃は、それなりの美丈夫だったと聞き及びまする」 

     

    姫君の面差しは間違いなく斎藤家寄りだと、三保野は頑として譲らない。 

     

    「ま、そなたがそこまで申すのなら、そういうことにしておこうか」 

     

    濃姫は可笑しそうにうと 

     

    「聞きましたか?三保野によれば、姫は斎藤家の顔立ちなのですって。信じられませんね」 

     

    やおら母の顔になって、腕の中の我が子に語りかけた。 

     

    姫は母である濃姫の顔を見上げつつも、周囲の様子や庭先の景色などが気になるのか、小さな両眼をきょろきょろと、興味深げに動かしている。 

     

    その仕草、つぶらな瞳の何と愛らしいことか。 

     

    三保野は見ているだけで胸の中がいっぱいになった。 

     

    「ほんに可愛らしい姫様ですな。きっと将来は、お市様以上に見目麗しく、品行正しき姫君にお育ちあそばされることでございましょう」 

     

    「ふふふ、じゃと良いがのう」 

     

    「こんなにも愛らしい御子を、鬼の子などと言うて罵倒し、姫様から奪い取ろうとなされた大方様の、 

     

    あの折のご言動の数々。嗚呼!今思い返しても腹が立ちまする!仮にもご自身のお孫様だと申すのに」 

     

    思い出して腹を立てる三保野に、濃姫はすかさず「やめぬか」と窘めた。 

     

    「左様な話、赤子であろうとも姫の耳には入れとうない。控えられよ」 

     

    も、申し訳ございませぬ。つい 


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