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「これにより、奇妙は名実共に我が織田家の嫡男。世継ぎと相定まった。故に皆々もこれまで同様、
いや、これまでにも増して奇妙を敬い、そして守り立ててやって欲しい。──良いな?」
信長が言うと、一同は床板の上に両の拳をつかえ「ははっ!」と了承の平伏をした。
家臣らの黒頭が素直に前へ垂れてゆくのを、信長は如何(いか)にも満足そうな表情で見据え、
類は、そんな信長の横顔を、ただただ驚き入ったような表情で、じっと見つめていた。
大広間での披露目の後、類の身は本丸・奥御殿の一室に移されていた。
侍女たちの手伝いのもと、白い御寝間着に着替えさせられた類は、厚い絹布団の上に静かに寝かせられている。https://freelancemania8.wixsite.com/website/post/%E3%80%8C%E5%84%82%E3%81%AB%E8%AD%B2%E3%82%8B%E6%B0%97%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%82%89%E3%80%81%E3%81%84%E3%81%A4%E3%81%A7%E3%82%82%E7%94%B3%E3%81%9B https://writeablog.net/carinadarling/mitch-joel-author-of-six-pixels-of-separation-and https://postheaven.net/carinadarling/tools-and-frameworks-the-laws
障子が開け放たれた部屋の入り口には、背後に侍女衆を従えた老女の千代山が控えており、
絹布団に横たわる類に対して、恭(うやうや)しく平伏の姿勢を取っていた。
「──お類の方様。この度はまことに、祝着至極に存じ奉りまする」
「…あなたは確か、以前 私が清洲城に参った折にもお会いした…」
「お久しゅうございます。織田家老女・千代山にござりまする。 此度、御正室・お濃の方様よりの命を賜りまして、
お類様のお身の回りのお世話と、御相談役を仰せつかりました故、よろしくお願い申し上げます」
「…お濃様が」
類は行き届いた濃姫の心遣いに、恐縮と、そして嬉しさを感じていた。
「輿に乗っての道中に加え、ご重臣方への披露目の席に参列なさり、さぞやお疲れになったことでございましょう。
本日はこの本丸にお泊まりになられ、疲れをお癒し下さいませ。何かあれば、この者たちが昼夜を問わず応対致します故」
千代山の後ろに控えていた侍女たちが、順々に頭を下げていった。
「お気遣い…痛み入ります…」
「明日、御医師の診立てを受け、何事もないようでしたら、麓の御殿へ改めてお移りいただくよう申しつかっております故、
それまではこちらで、ごゆるりとなされませ。 お身体に負担をかけ、ご容体が悪うなっては事にございますから」
「はい──。 あの…恐れながら」
「何でございましょう?」
「お方様は、こちらへはお出座(でま)しになられないのでしょうか?」
「通常お方様は、麓の御殿内の奥殿にお住まいにございます。行事やご用向きの折にはこちらへも参られますが、頻繁にお出座しになられることはございませぬ」
「左様にございますか…」
「ご心配なさらずとも、麓の御殿にお移りあそばされれば、ご挨拶参りくらいは叶うかと」
「いえ、そうではないのです。 …お方様からは色々とお心遣いを賜りました故、そのお礼と、
何より此度、奇妙様のご養母となって下さったことへの感謝を、いち早くお伝えせねばと思いまして」
「御意にございましたか──。左様であれば、この千代山にお言付け下さいませ。私の方からお方様にお伝え致しましょう」
「…有り難う存じます。なれど事が事です故、直にお会いして申し上げねば、感謝の思いも伝わりますまい。
少しの間だけでも良いのです。私が、麓の御殿へ参ることは叶わないでしょうか?」
その申し出に千代山は思わず「ほほほっ」と笑い声を上げた。
「お戯れを申されますな。明日になればおめもじが叶うのですから、今少し、ご辛抱あそばされませ」
「しかしながら──」
「お類の方様」
ふいに千代山は、相手を窘(たしな)めるような厳しい声色を響かせた。
「私共、仕える者の立場もお考え下さいませ。ご回復あそばされたとは申せ、お類様はつい先達てご危篤の状態にまで陥(おちい)られ、
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やがて、大きな足音と共に玄関口へと現われた信長は 「…おお!類、参ったか!」 類に笑顔を向けるや否や、段を下り、素足のまま輿の前へと歩み寄った。 「類。よう参った、よくぞ我が城に来てくれた!」 「…殿…」 「頑固者なそなたのこと故、よもや出立の前になって “ やはり城入りは嫌じゃ ” と我が儘を言い出しやしまいかと、気が気ではなかった。 じゃが、こうしてそなたの到着を出迎えることが出来て、今は儂も心から安堵しておる。よくぞ分別し、こちらへ参る決意をしてくれたな」 「…殿が、私の身を案じてお下しになられたご命令とあらば、それを無下に断る訳にも参りませぬ故」 信長は微笑を保ったまま「左様か」と頷くとhttps://zenwriting.net/carinadarling/da-dian-yang-ga-gowei-du-kitoku-nigozaimasu http://eugenia22.eklablog.net/-a216051149 https://app.gumroad.com/carinadarling/p/30251c3d-9d48-4048-bb0f-e7f456adf9da 「その着物も、華やかな色柄がそちによう似合うておる」 「…本日の為に殿より賜りましたお衣装です故、僭越ながら身につけさせてはいただきましたが……申し訳のうてなりませぬ」 「何が申し訳ないのだ?」 「…見ての通り、病に侵され、すっかり痩せ細ったこの身に纏うても、傍目(はため)からは不恰好に見えるばかり。 せっかくかように高価なお衣装を賜っても、私が着ると台無しになってしまいます故、それが申し訳なくて…」 「何を言うておる? 不恰好など飛んでもない。よう似合うておる。贈った儂が言うておるのじゃ、間違いない」 「……殿」 「いずれにせよ、本日は最良の日となろう。儂にとっても、また、そなたにとってもな」 「それは、いったいどういう…」 「何、すぐに分かる。 ──さぁ、参ろう。皆(みな)が待っておる故」 「皆?」 類が首を傾げると、信長は徐(おもむろ)に輿の中へ両腕を伸ばすと 「さ、行くぞ!しっかり掴まっておれよ!」 そう告げつつ、類の身を軽々と抱き上げた。 「…と、殿!何をなされまする!?」 類は驚いて聞くが、信長は笑顔でごまかすばかりで答えようとしない。 信長は類を抱えたまま再び御殿に上がると、恒興の誘導のもと、城の奥へ奥へと進んでいった。 「──お成りにございます!」 それから数分後。 本丸・表御殿の大広間に、信長らの訪れを告げる小姓の声が、高らかに響き渡った。 黒漆塗りの総床板の下段には、林秀貞を筆頭に、内藤勝介、柴田勝家、森可成たち主だった重臣たちが、 その背後に更に大勢の織田家臣を従えて整然と居並び、主君のお成りに対して低く頭を下げていった。 やがて上段の端にある襖がスッと開くと、その腕に類を抱えた信長が、慎重な足取りで座に入って来た。 信長は類を座らせることもなく、抱えたまま上段の中央まで進み行くと 「皆々、本日は大儀である!」 「「ははーっ」」 「遠慮はいらぬ。面をあげよ!」 いつもの、甲高いが威厳に満ちた声色で、居並ぶ家臣たちに呼びかけた。 一同はゆっくりと伏せていた顔を上げるなり、誰もが主君の腕の中の女人の存在に「…お」という反応を示した。 「顔を見知っておらぬ者も多い故、この機に改めて紹介しておく──。 生駒家宗の息女にして、 現 小折城主・生駒家長の妹・類じゃ。皆も知っての通り、我が嫡男・奇妙の生母(はは)である」 信長が披露すると、一同は上げたばかりの頭をまた小さく下げた。 「奇妙だけでなく、先達てこちらの城へ引き取りし茶筅、五徳もこのお類の腹じゃ。
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「ですから、私はそのようなことは何も──」
「なれど私は、そのお考えは些(いささ)か早計過ぎるようにも思うのです」
お慈は相手の反論を遮るように言った。
「殿は外にお側女を幾人もお持ちになっているにも関わらず、そこに入り浸ることもなく、暇さえあればお方様の元へ参っておられる。
閨房の事も続いておられる上、殿は奇妙様をお方様のご養子にと考えておられるご様子じゃ。お世継ぎの養母(はは)となれば、https://slides.com/carinadarling/deck https://www.haggadot.com/clip/the-role-of-women-in-leadership-24-43-441009 https://pharmahub.org/members/36881/collections/sleep-is-a-fundamental-biological
お方様のお立場は更に揺るぎなきものに……。 あのお方が単なる政略の道具であれば、殿もそこまではなさるまい」
言葉にはしなかったが、何か特別な、愛情めいたものを感じるとお慈は密かに思っていた。
「とにもかくにも───後ろ楯も御子もなく、最も厳しい状況下におられながらも、殿より一番のご寵愛を注がれているお方様は、
まさに私が先ほど申した、主君の寵を持って己の権勢を保持してゆく生き方の、お手本のような存在です。
そんなお方様を、敬(うやま)い、見習いたいと思いはしても、憎悪の念などを抱いたことはございませぬ。早合点をなされますな」
「…お慈殿…」
お慈は、その華やかな面差しに冷めたい微笑を浮かべると
「覚えておいて下さいませ。私が望むのは、己が得られる最大限の権勢を手に入れることと、
私がこの手でお育て申し上げた奇妙様の、健やかなるご成長だけにございます。それ以上は何も望みませぬ」
まるでお養を言い銜(くぐ)めるような語調で告げた。
「何故、私にそのようなことを仰せになるのです?」
「同じ側室同士です故、教えて差し上げているのです。何事も、程々が肝心だということを」
「……」
「人は弱い生き物故、身の丈に合わぬ欲を持ち過ぎると、その重みに耐えられず、いずれは潰れてしまいまする。
なれど欲が軽ければ、一度潰れたとて、傷の治りも早く、再び自力で立ち上がることも叶うというものです。
──お養の方様も、いざという時の為に、お心掛けだけはなされていた方がよろしいかと」
お慈の得意げな態度に、穏やかなお養も、俄な苛立ちを覚えたのか
「…そ…そのようなお言葉は、御子をお産みになられてから申されませっ」
眉間に細い立て皺を寄せながら、吐き捨てるように言った。
思わずお慈は一驚の表情を浮かべる。
が、やがて嫣然と微笑むと
「そうですね。まだ皆様と同じ土俵にも立っていない私が、申し上げるようなことではございませなんだ」
お許し下さいませと、慇懃に頭を下げた。
「私もいずれ御子を身籠りましたら、殿にお頼み申して、外に屋敷を賜る所存にございます。
いけずな侍女方の目が光る、このような伏魔殿の如き場所に、いつまでも留っていたくはありませぬ故」
「……」
「そうなった暁には、どうぞよしなにお頼み申しまする」
お慈は、またにっこりと微笑(わら)って見せると
「では、次はお庭の方をご案内致しましょう──」
まるで何事もなかったかのように、再び前に向かって歩き始めた。
『 あの信長様がお選びになった方々故、篤実なおなごばかりが揃うているのかと思っていたが……そうではなかったようじゃな 』
十人十色とはよく言ったもの。
お慈はそう思いながら、地に足を吸われているような重々しい歩調で、目の前の長い廊下を進んでいった。
その日の夜。
「──じゃから、ついうっかりしていただけじゃと言うておろう!」
「──ついうっかりで、我が子の名付けを忘れる親がどこにいるというのです!?」
濃姫は、自身の御座所へ戻って行く信長の背中を、足早に追いかけていた。
やがて座所の御居間に入り、信長がドンッと上座に着座すると、濃姫もその傍らにすかさず控えた。
「聞けば、姫君が産まれて以来、一度もお養殿の屋敷には参られていないというではありませぬか?
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しかし、ややあってから
「……お慈殿は、お濃の方様のことがお嫌いなのですか?」
とお養が訊ねると
「私が、お濃の方様を嫌い?」
お慈は実に不思議そうな顔をした。
「…お方様に対して、そのようにお厳しきことばかりを申されているので…」
お養が恐る恐る言うと、お慈は口元を三日月形に吊り上げるなり、弾けたように笑い出した。
これにはお養もきょとんとなる。
「何が可笑しいのです…?」https://open.substack.com/pub/carinadarling/p/spending-time-in-nature?r=4853yd&utm_campaign=post&utm_medium=web&showWelcomeOnShare=true https://www.debwan.com/blogs/562497/Gardening-is-a-rewarding https://rollbol.com/blogs/1873848/Remote-work-has-seen
「申し訳ございませぬ。お養様があまりにも異なことを仰せになるものですから」
そう言って、お慈はにんまり微笑むと
「嫌いなど、飛んでもございませぬ──。 寧(むし)ろ私は、お濃の方様をご尊敬申し上げているのですよ」
さも当たり前のように答えた。
思わぬ返答にお養は当惑する。
「されど、先ほどまでお方様を侮られるようなことを…っ」
「確かに私は、お方様を侮り、嘲るようなことを申し上げました。なれどそれは、
お方様が先ほど座敷で仰せになった事に、私が共感出来なかったという事が言いたかっただけで、
殿のご正室であるお方様を嫌いなど…、一度として思うたこともございませぬ」
微笑みながら述べる相手を、お養は怪訝そうな面持ちで見つめる。
「私、先ほど申し上げましたでしょう? 権力を得る為の最大の近道は “ 殿より絶え間なきご寵愛を賜ることじゃ ” と」
「……」
「では今、この織田家の女たちの中で、最も殿のご寵愛深きお方は、お養の方様、いったい誰だと思われますか?」
「それは……」
ふいの問いにお養は答えあぐねる。
そんな彼女を見て、お慈はまたふふっと笑うと
「大半の方々は、お世継ぎの奇妙様を筆頭に、茶筅丸君、五徳姫様と立て続けにお産みになられた、お類の方様だと思われているようですが、
それは違いまする。 ──この奥で最も殿のご寵愛を受けておられるのは、誰あろう、ご正室のお濃の方様です」
確信めいた口調で述べた。
「…何故、そのようなことがお分かりになるのです?」
お養が疑問に思って訊ねると、逆にお慈は “ 何故それが分からないのか? ” と言わんばかりの、唖然とした表情で相手を見つめ返した。
「言わずと知れたことではありませぬか。お方様は元々、美濃と尾張が同盟を結ぶ、その政略の証として殿にお輿入れあそばされたお方じゃ。
故に、殿と道三殿との絆が磐石であった頃は、お方様の尾張での存在理由もあられたが、道三殿が没した今となっては、もはや殿のご正室という肩書きだけしかありませぬ」
「……」
「婚姻による同盟が成り立たなくなっている今、御子のないお方様は、御髪を下ろして尼寺へ預けられるか、または離縁状を書かれ、
里に送り返されても不思議ではないお身の上じゃ。 にも関わらず、未だに殿のお側に留め置かれているのは何故か?」
「……亡き道三様のご遺言があるからではございませぬか?」
お養のふいの呟きに、お慈は鋭く反応する。
「それは、自身の後継者として、殿に美濃一国を殿に譲るという、あのご遺言のことですか?」
「ええ…。 道三様の姫君であらせられるお方様がお側にいなければ、そのご遺言も成り立ちませぬ故」
「つまりお養様は、殿が美濃を手に入れる大義名分の為だけに、お方様を側に置かれていると、そう申すのですね?
美濃一国が手に入った後は、殿も、お方様を早々に切り捨てるおつもりであると」
「な、何も私は、そのようなことまでは…っ」
「良いのですよ、そのようなことはどちらでも。実際にそう思うておられるお方は、あなた様お一人ではありませぬ。
この城内の人間の殆んどが、一度は左様なことを思うたことがございましょう。 …それはきっと、お方様ご自身とて」
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「お慈(ちか)殿───こちらは、殿のご側室にして、これにおわす二の姫様のご生母・お養の方殿じゃ」
乳母に抱かれた冬姫に目をやりつつ、濃はやって来た女に、お養を有り体に紹介した。
“ お慈 ” と呼ばれたその女は、口元に笑みをほころばせながら、ゆったりとお養に会釈する。
「お養殿。こちらへ参られたるは、お慈の方殿。まだ御子は成しておられぬが、殿の思し召しにより、新たらしゅうご側室の列に加わったお方じゃ」
濃姫の紹介を受けて、お養は軽く一驚すると、
「まっ、左様にございましたか。…これは失礼を致しました」
慌ててお慈に会釈を返した。https://slides.com/debsyking/deck-bc2adf https://www.haggadot.com/clip/meditation-42-12-441008 https://pharmahub.org/members/36877/collections/favorites
「何もそのように畏まる必要はありませぬ。姫君のご生母であるお養殿の方が、この者より上席なのですから」
濃は小さく微笑(わら)うと
「と言うてもお慈殿は、新参という訳ではありませぬ故、この織田家のこと、殿のことはお養殿よりもようご存じやも知れぬな。
──おお、そうじゃ。お慈殿、後でお養殿に城の中を案内して差し上げよ。今日は良い天気故、庭などを散策致すのもよろしかろう」
やんわりとお慈に告げた。
「承知致しました」と、お慈が鄭重に承ると
「…あの、それはどういう…。お慈殿はいったい…」
今一 事情が掴めなかったのか、お養は困惑気に眉をひそめた。
「お慈の方様は、殿の御家臣・瀧川一益殿の縁の者にて、元はご嫡男・奇妙様の乳母( 慈徳院 )であられたお方にございます」
控えていた千代山がさりげなく述べた。
「奇妙様が清洲の城へ移られてより、長らくその乳母として仕えておられましたが、今では殿のご寵愛を賜るお身の上となられ、城の離れにお住まいにございます」
まるで書類を読むような、淡々とした言い方で千代山が語ると
「───奇妙様の乳母の身から、畏れ多くも殿のご側室に昇格なされるとは、ほんに大変なご出世」
「───瀧川殿のことを様付けで呼ぶ日が来ようとは。人生とは分からぬものにございますなぁ」
ふいに濃姫の付きの侍女たちが、皮肉混じりに呟いた。
「お慈の方様に任せられていたお役目は、奇妙様のお世話であったはずですのに」
「まさか我らの知らぬところで、殿のお世話までなされていたとは。ほんに浅ましい」
「………」
お慈は言い返すこともなく、唇を固く噛み締めながら、悄然とした様子で俯いている。
お養も心配になって、思わず俯くお慈の横顔を見つめていると
「控えよ!!」
濃姫が侍女たちに向けて、鋭利な眼光を注いだ。
「揃いも揃って、何というはしたなきことを申すのです!」
主人の激昂に、侍女たちは慌てて平伏の姿勢を取る。
「お慈殿をご側室にと所望されたのは、他でもない殿ご自身じゃ。この者一人に恨み言を申すのは筋違いであろう!?」
そう厳しく叱り付けると
「お慈殿、許してたもれ。城内にお手付きとなった者がおわすのは初めてのこと故、皆々気が立っているのです」
濃姫は相手の気持ちを忖度するように言った。
それを受けて、お慈は瞬時にかぶりを振ると、目前の畳の上にサッと両の手をつかえた。
「いえ…、お気遣いいただき忝のう存じます」
「良いのじゃ───。 それよりもお養殿、お慈殿。共に殿のお側で仕える者同士、これよりは仲良う致されよ。
奥向きの安寧を守る為にも、くれぐれも、嫉妬や小競り合いなどは致さぬよう。よろしいな?」
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