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『 実に良き子じゃ。……身体に不自由があるから何だと言うのであろう。頭もあれば胴もある。
片方ずつじゃが手足もちゃんとある。この子を人と呼ぶのに、いったい何の不足があろうか? 』
『 殿─… 』
『 しゅう言う者共など放っておけば良い。暇な連中のに過ぎぬ。
それよりも、この子が病などにかからぬよう、寂しい思いなどせぬように、心して育てよ。
この御子は、亡き道三殿と我らを繋ぐ、唯一無二の御子なのじゃからな 』
信長が励ますように告げると、濃姫は目の前の畳の上に両の手をつかえて
『 承知致しました。 …お言葉、この胸に深く刻み、母として誠心誠意、姫君の訓育につとめて参る所存にございます 』https://console.mytrendingstories.com/article/single/self-disciplined https://debsyking.bcz.com/2024/08/19/%e3%81%aa%e3%82%89%e3%81%b0%e8%a1%8c%e3%81%8d%e9%81%8e%e3%81%8e%e3%81%9f%e6%b0%97/ https://workdrive.zohopublic.com/writer/open/j22cx569205cfd7844f70a8ca7b03f33b674c
まるで神仏の前で誓い立てるような、強い心持ちで述べた。
「──あの折の殿のご寛大さには、今も尚 感謝致しておりまする」
回想を終えた濃姫の面差しに、柔和な笑みがほころぶ。
「姫の身体のことは元より、乳母や侍女を側に置いても、今のまま姫の世話や教育に携わっても良いとまで仰せ下された。
本来ならば決して許されぬことであろうに、ここまで私の気持ちに沿うて下されて……ほんに有り難い限りじゃ」
「ある意味で申せば、尋常ではないお考えをなされるあの殿だからこそ、左様なご決断に至ったのやも知れませぬな」
三保野が冗談めかして言うと、濃姫も同感そうに頷いて
「ほんにな。 ──姫、そなたの父上が尾張の大うつけと呼ばれたお人であったおかげで、そなたは救われたのですよ。感謝せねばなりませぬなぁ」
乳の匂いがいっぱいする姫君の身を、優しく抱き締めた。
そんな時、部屋の前の廊下にスッと黒い影が差し込み
「何やら賑やかじゃのう」
と、聞き慣れたあの甲高い声が響いてきた。
「まぁ、殿…!」
濃姫は素早く入口に膝を向けると、姫を抱いたまま静かに頭を下げ、三保野はあたふたとその場にした。
「お出でとは気付かず、申し訳ございませぬ。 …義昭様へのご挨拶は、もうお済みになったのですか?」
「ああ、滞りなくな。思うた以上に早く終わった故、その足でこちらへ参ったのじゃ」
「左様にございましたか」
「ところで、尾張の大うつけと、何やら懐かしき呼び名が聞こえてきたが──何じゃ?儂の悪口で盛り上がっておったのか?」
信長はきながら部屋に足を踏み入れると、濃姫たちの前に笑顔で膝を折った。
濃姫は笑ってかぶりを振る。
「滅相もございませぬ。殿のようなお人が父上であったお陰で、姫はこうして幸せに過ごせているのだと、殿のことを賛えていたのでございます」
「ははは、上手いことを申す。 ……どれ、貸してみよ」
信長は両腕を差し出すと、濃姫の腕からそっと赤子を預かった。
「おうおう、また重とうなったのう姫は」
「はい。の他 乳をよう飲む御子で、まるでおのこのように活発でございます」
「それは何よりじゃ。健やかなることが一番じゃからのう」
信長は抱きあやしながら、らしくもなく、うっとりと目尻を下げた。
「実に可愛ゆきものよ。姫は目鼻立ちも整っておって、なかなかの美形じゃ。さすがは織田家の子よのう」
「先程 三保野とも左様に話しておりました。姫が美しい顔立ちなのは、殿のお血筋だと」
「そうであったか」
「なれど三保野などは、姫が美しきは斎藤家の血筋故だと申すのですよ。可笑しゅうございましょう?」
「いや、別に可笑しゅうはない。母であるそなたがほどに端麗な顔立ちなのじゃ。斎藤家の血も幾らかは貢献してくれたのであろう」
夫の言葉を聞いて、濃姫は思わずふふっと笑った。
「何と嬉しいこと。殿が私のを左様に褒めて下さったのは、初めてのことにございますな」
「ん?そうであったか? 嘘じゃ、いつも褒めているであろう」
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『 この赤子は儂の血を引く、紛れもなき織田の姫。それも、本来ならば長女である徳姫よりも重んじられねばならぬ、正室所生のにございます。 手足に障りがあるからというだけで、織田家の嫡女を、素性も分からぬ者々の手に預けるような真似は、断じて出来ませぬ 』 『 されど!そなたは先程 “ それはならぬ ” と、お濃殿の申し出をね付けられておったではないか!? 』 『 それはお濃が、姫には乳母も侍女もいらぬなどと、勝手なことを言い出した故にございます。 我が嫡女として産まれた以上、姫にはるべき乳母と、専属の侍女を付けてやる所存にございます 』https://6190d4c180819.site123.me/blog-1/i-ekaterina-recently-keynoted https://rodney.bravesites.com/entries/general/%E6%BF%83%E5%A7%AB%E3%81%AF%E6%80%9D%E3%82%8F%E3%81%9A%E9%8F%A1%E5%8F%B0%E3%81%AE%E4%B8%8A%E3%81%AB%E6%AB%9B-%E3%81%8F%E3%81%97-%E3%82%92%E7%BD%AE%E3%81%8D https://debsy.substack.com/publish/post/147824425 報春院に向かって、頷くように頭を垂れると 『 故にお濃。そちが独りで育てて参るなどいう、突拍子もない考えは捨てよ。いらぬ覚悟じゃ 』 『 殿… 』 『 この姫は織田家が、父たる儂がしかと養して参る故、安堵致せ 』 濃姫の心の憂いを拭ってやるように、信長は優しく笑んだ。 濃姫は嬉しくて堪らなくなり、信長と赤子の面差しを交互に見やりながら、うっすらと涙を滲ませる。 三保野も思わず破顔一笑して 『 姫様──よろしゅうございました!ほんによろしゅうございましたな 』 と、嬉しそうに姫の横顔に告げた。 『 三保野… 』と濃姫も深く頷き返す。 信長の決断に喜びを露にする二人に対して、報春院は苦虫を噛み潰したような表情で息子をめ付けていた。 『 …信長殿…。そなた…どういうおつもりじゃ? 』 『 何かご不満がございますか? 』 『 左様なこと言わずとも分かろう! そなたは、織田家の行く末を、名誉を、何と心得ておるのじゃ!? 』 『 無論、織田家当主として、何よりも守り抜かねばならぬものと心得ておりまする 』 『 ならば何故に左様な──っ 』 『 この赤子の存在が、織田に悪しき影響を与えることはないと思うたが故にございます』 報春院は『 何っ 』と言う顔で、息子の次なる言葉を待った。 『 申し上げた通り、赤子は岐阜の城で育てて参りまするが、その存在はこれまで通り、表には伏せて参りたいと存じまする。 元よりお濃の懐妊も出産も密事だったのです。今更、様々な言い訳を並べ立ててまで、子を世に出そうとは思いませぬ 』 信長は毅然として言うと 『 お濃も、この旨に異存はなかろうな? 』 再び濃姫に目をやった。 濃姫は一瞬 うような様子を見せたが、そうなることははなから覚悟の上であった。 我が子から引き離されるくらいなら…。 この子が好奇の目に晒されるくらいなら…。 世の汚辱から我が子を守ってやる為ならば…。 自分はどんな我慢とていとわないと、濃姫は強い思いで頭を垂れた。 『 はい──。それがこの子の為、ひいては織田家の為になるのであれば、私にやはございませぬ 』 『 …お濃殿! 』 『 母上。 母上はこの赤子の処遇については、父である儂に託されると仰せになられた。その儂が決めたことに、今更異存を申されるおつもりですか? 』 『 それは… 』 『 先程も “ この赤子を生かすも殺すも、そなた様の自由じゃ ” と左様仰せになられた 』 『 …… 』 『 武家のおなごが一度口にした言葉に、よもや二言などはございますまいな? 』 静かに告げられる信長の言葉に、報春院は思わず鼻白んだ。 苦し紛れにキッと信長を睨むも、相手は微塵も動じない。 報春院は奥歯を強く噛み締め、短くも重々しい溜め息をくと 『 勝手になされよ… 』 呟くように告げてから、足早に座を辞した。 思い詰めたような面持ちで姑の背を見送る濃姫の横で、信長はふっと鼻息を漏らす。 『 相も変わらず頭の固いお方じゃ 』 『 …お引き止め致さなくて、良かったのでしょうか? 』 『 気に致すな、いつものことじゃ。あの母が、はなから理解して下さるとは思うてはおらぬ 』 信長は想定内とばかりに言うと、に、寝かせられている赤子の側に寄り、 のように真っ赤な頬に、そっと指先で触れた。
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「…お待たせ致して申し訳ありませぬ!ちょうど小姓たちが境内の清掃をしておりまして、井戸端が混雑していたものですから」
と弁解しつつ、振動で波立つ盥の水を静かに差し出した。
「ご苦労様であったな」
濃姫は労うと、自らの懐からを取り出して、それを水に浸し、力強く絞った。
「──さ、姫。これで楽になりますからね」
濃姫は朗らかにうと、敷物の上に寝かせている、目の前の我が子の脚の付け根に、濡れた袱紗をそっと当てた。https://sitenum.com/debsy.com https://diigo.com/0x677w https://rodney.bravesites.com/entries/general/%E3%81%97%E3%81%8B%E3%81%97%E7%9A%86%E3%81%AE%E4%BA%88%E6%83%B3%E3%81%AB%E5%8F%8D%E3%81%97%E3%81%A6
気持ちが良いのか、小さな姫は右手、左足を動かしながら、キャッキャッと笑った。
「軽いのようじゃな。どうやらの中が汗で蒸れておったらしい」
「まあ、それはお可哀想に」
「汗疹の時は清潔が第一じゃ。後で肌荒れに良い湯に入れるのも良いやも知れぬな」
濃姫は言いながら、我が子の脚の付け根にふーっ、ふーっと息を吹きかけた。
「汗疹のところは衣を被せぬようにして、後はこのまま様子見じゃ。あまり構い過ぎると逆にひどくなる故」
濃姫は手当てを済ませると、赤子をそっと抱き上げて「よしよし」とあやした。
「姫はまことに強い御子じゃ。汗疹で辛いはずなのに、泣きもぐずりもせず、ほんに我慢強いのう」
「それにおはお健やかそのもの。さすがはあの殿と、道三様のお血筋にございまする」
「三保野もそう思うか? 私も左様に感じておったのです。片方の手足がないという障りがありながらも、かように健勝なのは殿や父上の血筋故であろうと」
濃姫の言葉に三保野は小さく首肯すると
「そしてお顔立ちがお美しいのは、母上である姫様譲りにございましょう」
赤子の顔を見つめながら、どこか誇らしげに言った。
三保野の言う通り、顔立ちがはっきりし始めた赤子の面差しは、目鼻立ちが整っていて何とも美しい。
涼しい目元など、母である濃姫に瓜二つである。
「いいえ。姫が美しいのは、それこそ殿のお血筋であろう。美形揃いの織田家の血を引いておるが故じゃ」
思わず苦笑する濃姫に、三保野は大きくかぶりを振った。
「左様なことはございませぬ。お目は姫様そっくりにございますし、道三様もお若き頃は、それなりの美丈夫だったと聞き及びまする」
姫君の面差しは間違いなく斎藤家寄りだと、三保野は頑として譲らない。
「ま、そなたがそこまで申すのなら、そういうことにしておこうか」
濃姫は可笑しそうにうと
「聞きましたか?三保野によれば、姫は斎藤家の顔立ちなのですって。信じられませんね」
やおら母の顔になって、腕の中の我が子に語りかけた。
姫は母である濃姫の顔を見上げつつも、周囲の様子や庭先の景色などが気になるのか、小さな両眼をきょろきょろと、興味深げに動かしている。
その仕草、つぶらな瞳の何と愛らしいことか。
三保野は見ているだけで胸の中がいっぱいになった。
「ほんに可愛らしい姫様ですな。きっと将来は、お市様以上に見目麗しく、品行正しき姫君にお育ちあそばされることでございましょう」
「ふふふ、じゃと良いがのう」
「こんなにも愛らしい御子を、鬼の子などと言うて罵倒し、姫様から奪い取ろうとなされた大方様の、
あの折のご言動の数々。…嗚呼!今思い返しても腹が立ちまする!仮にもご自身のお孫様だと申すのに」
思い出して腹を立てる三保野に、濃姫はすかさず「やめぬか」と窘めた。
「左様な話、赤子であろうとも姫の耳には入れとうない。控えられよ」
「…も、申し訳ございませぬ。つい…」
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「お濃殿が我が手で子供を育てたいと申し時は、わらわも驚き入った。鬼の子を織田家で抱え込むつもりなのかと、散々反対致したが、
お濃殿もなでのう。 …出来ればわらわとしては、問題の種は早々に始末し、事を円滑におさめたいと思うておったのじゃが」
始末という言葉に、小さくなっていたお菜津がサッと顔を上げる。
「では、ま、まさか、姫君様は──!?」
「お菜津殿。案ずるには及びませぬ。お産まれになられた姫様は、ご健勝にお過ごしにございます」
焦り顔のお菜津に千代山は優しく微笑みかけた。
「…左様に…ございますか」
吾子が無事と知り、お菜津はほっと胸を撫で下ろす。
「生かすならば生かすで、せめて他家へ預けるか、尼寺へ入れよと言うたのじゃが、お濃殿がいずれもと致さぬ構えでのう」https://truxgo.net/blogs/78402/1604034/wo-men-da-duo-shu-ren-dou-bu-tai-zai-yi-ru-he-qu-ying https://www.discuss.com.hk/viewthread.php?tid=31668076&extra=&frombbs=1 https://88db.com.hk/Business/On-Their-Website/ad-5921163/
「であれば大方様。産まれた姫様は今、どちらにおられるのですか?」
古沍の問いに、報春院は一瞬 憂鬱そうな表情を浮かべた。
しかし、いずれは話さねばならぬこと。
報春院はあさっての方向に視線を向けながら、やがて重々しく口を開いた。
「あの姫ならば、今頃は──…」
一方、濃姫がおわす京・二条衣棚の妙覚寺では、境内にある長い長い渡り廊下を、寺小姓たちがそれは丹念に拭き掃除をしていた。
寺院の清潔を保つことも修行の内と心得、廊下の柱や欄干に至るまで、全て余念なく磨き上げていく。
やがて、小姓たちが廊下の床を鏡の如く磨き上げ「ふ~っ」と、額に湧いた汗を袖で拭っていると
「──おどき下され!おどき下され!」
廊下の奥から、井戸水の入ったを手にした三保野が、脱兎の如く駆けて来た。
三保野は渇いた素足で、バタバタと小姓たちが磨き上げた床板の上を走ってゆく。
廊下にはくっきりと三保野の足跡が残り、その後には、盥から零れ落ちた僅かな水が点々と続いていた。
小姓たちはそれを見て「…またや」と溜め息をき、口々に愚痴を漏らし合った。
「見や、あのお人のせいでまたやり直しや」
「あのお人が参られてから、ろくなことがないなぁ。昨日は手拭いの切れ端、今日は盥の水かいな」
「の離れと本堂をいつも行ったり来たりして、いったい何をしてはるのやろ?」
「詳しいことは御住職様しか知らんようやけど、聞いたところによると尾張、美濃を治めておられる織田家の縁の方やとか」
「織田家の縁の方って、誰?」
「さぁ、そこまでは知らんけど」
「でも知ってるか? あのお人らがおられる竹林の離れでは、随分と恐ろしいことが起きているらしいで」
「恐ろしいって?」
「夜に離れの近くを通りかかると、どこからともなく “ ンギャー、ンギャー ” と、のようなうめき声が聴こえて来るらしいわ」
「ああ、それなら聞いたことがある。何でも、離れの客人が夜な夜な獣に化けて、奇声を発しておるのやとか!」
「まさか、それは幾らなんでも考え過ぎやろ」
「いや。御住職様も、竹林の離れにはゆめゆめ近付いてはならぬと申しておったし、獣に化ける人間を、訳あってっているとも考えられる」
「……そんな、阿呆なこと…」
小姓たちは三保野が去って行った廊下の彼方を見つめながら、小さく身震いするのだった。
周囲が竹林に取り囲まれた寺の離れ。
その一室では、の小袖の裾をたすき掛けにした濃姫が、三保野の帰りを今か今かと待っていた。
程なく三保野が、先程と変わらぬ慌ただしさで部屋に入って来て
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だが彼もまた上洛を果たしておらず、加えて松永・三好一党によって操られる将軍であった。
しかしこれによって、義秋の焦りと幕府再興への意欲が高じたのは言うまでもない。
「──この月の十五日には、義秋様もようよ元服の儀を受けられ、御名の『秋』の字が不吉じゃからと『昭』の字に改められたそうな」https://postheaven.net/0v8cqk1ash https://www.moneyformybeer.com/?p=9573 https://freelancer1.bloggersdelight.dk/2024/08/08/%e4%b8%8b%e6%ae%b5%e3%81%ae%e4%b8%ad%e5%a4%ae%e3%81%a7%e6%8a%ab%e9%9c%b2%e3%81%95%e3%82%8c%e3%81%a6%e3%81%84%e3%82%8b/
信長は下段に向かって一本指を出し、宙で昭の字を書いた。
「ま、義秋がになったところで、さして運が開けるとも思えぬがな」
信長は皮肉混じりにうと
「直々に義昭様のご意向を伝えるべく、この文の主は儂との対面を求めてきておる。 ……はてさて、どう返答するべきかのう」
言いながら、どこか悠長な顔付きで腕を組んだ。
心は既に決まっているようである。
「殿。ながら──」
「おお、勝家か。申してみよ」
「は、その者と一度お会いになるべきかと存じます。義昭様を大義名分として京へ上れるのであれば、我らにとってはまさに好都合。
織田家が天下に覇を唱えるという殿のご意向を実現させる為には、此度の上洛は必要欠くべからざるものかと」
信長は我が意を得たりと、満足そうに頷く。
「左様か。…、筆頭家老であるそちの存念も聞こうか」
「畏れながら、義昭様を奉じて都に上ることにつきましては、某も賛成にございます」
「ほぉ、そちもか」
「以前とは異なり、織田家はこの美濃の地を平定し、加えて北近江の浅井氏と同盟を結びましたる今、京への道筋も確保出来ておりまする。これを使わぬ手はございませぬ」
秀貞の言葉に、稲葉良通も同意そうに首肯する。
「左様。また上洛によって、都で荒れ狂う松永・三好勢を一掃し、義昭様を将軍の座に据えることが叶えば、
幕府に代わって織田家がの実権を握るという筋書きも、決して夢ではございますまい」
「さすがは美濃三人衆の頭、大胆なことを言いおる」
信長が小気味良さげに笑うと
「されど、殿。お会いになるにしても、その文の送り主はまことに信用のおける者なのでしょうか?」
ふいに長秀が怪訝な面持ちで訊ねた。
「確か以前の折は、信昭様の御側の細川藤孝殿が使者となって殿に上洛の旨を申し入れられましたが、此度は朝倉殿の家臣を寄越されるとは…」
「の匂いでも感じるか?」
「そ、そこまでは申しませぬが、どのような素性の者なのかと思いまして」
「案ずるな、使者は此度も細川殿じゃ。信昭様が朝倉に身を寄せておられる縁から、自身はその仲介を任されたと文にもある」
「して、その者の名は?」
「名? ──そうじゃのう…確か名は…」
大雑把に読んで記憶に残っていなかったのか、信長は折り畳んだ文を再び広げると
「。明智光秀と申す者だ」
文の末尾に書かれた名を読み上げた。
すると良通は「ほぉ…」と小さく呟くなり、その強面に微かな笑みを湛えた。
「光秀殿。それはまた、懐かしき御名にございますな」
「何じゃ良通、この者を知っておるのか?」
「知っているも何も、かつての美濃守護・土岐氏の支流である明智家の出の者にて、今は亡き道三公にも共に仕えていたことがございます」
「の親父殿にじゃと !?」
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