『新平くんはほっとしてるかもな。』
新平と一緒になっていたら小料理屋でも開いてただろうか。
二人は幸せになったに違いない。http://blog.udn.com/KristinCoffman/170714315 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2022/01/20/230856 http://janessa.e-monsite.com/blog/--92.html
今はもう叶わない事なのだけど。叶わないもしもの話を考えていても仕方ない。
これから三津がどんな幸せを掴むかを楽しみにしよう。
「そろそろ来はるんちゃうやろか?」
三津がそわそわしてちょっと見て来ると席を立った。
「案外寂しいもんやなぁ…。」
功助は眉を八の字にして微かに笑みを浮かべる。
「嫁に行くんちゃうねんからいつまでも帰って来るわ。」
寂しい気持ちを紛らわすように自分にも言い聞かせて三津を追って表に出た。
もしかしたらまた近所の家に転がり込むかもしれんと見張りに向かう。
もうすぐで甘味屋に辿り着く。
「あ,三津さんとおトキさん。」
店の前の二人を見つけて総司が手を振りながら一歩一歩近付いていたのだが,
「三津に近付いたらアカーンっ!」
雄叫びのような声がして総司の腰に小さな塊が飛びついた。
「脅かさないでくれますか?」
くすりと笑って力一杯しがみつく腕をほどきにかかると,嫌々と首を振って総司を睨みつけた。
それを見ていた三津とトキが慌てて総司に駆け寄った。
「宗太郎!止めなさい何してんの。」
三津の声を聞くなり睨みつけていた目が潤みだした。
「アカン!俺が離したら三津を連れてってまうんやろ?そんなんアカン!」
宗太郎はこれでもかと言うぐらい両手に力を込めて,両足で踏ん張ると総司を後ろに引きずろうとした。
「総司,何だこのガキは。」
梃子でも動かんと決め込んだ宗太郎をじっくり眺めてから土方が問う。
「宗太郎くんと言って三津さんのお友達で弟のような子です。」
恐がらせないで下さいねと言いながら,まとわりつく腕を三津とトキと共に外そうとするが,腕の力は強まるばかり。
「いい加減にして!
これ以上困らせたら遊んであげへんから。」
三津はしゃがみこんで泣きそうな目をじっと覗き込んだ。
すると宗太郎の口はへの字に曲がり,今まで堪えていたせいか両目からは涙が一気に溢れ出す。
「嫁には行かんかった癖に!
道も分からん癖に!
何で遠くに行こうとするねん阿呆ぉーっ!」
腹の底から大声を上げ,総司の背中に頭突きを始めた。
「なっ!ちょっとホンマにいい加減にしなさい!」
『羨ましいぐらい仲良しだな。』
慌てふためく三津には悪いが総司は二人を見て笑みを浮かべた。
今生の別れを思わせる宗太郎の泣き声に近所のみんなも集まって来た。「宗ちゃん,もうみっちゃん困らせたらアカン。」
気持ちも分からんでもないが…。
これだけ大泣きされてはたまったもんじゃない。
でも宗太郎はわんわん泣いて総司にしがみついたまま。
『私も昔はこんなだったな。』
総司は宗太郎に昔の自分を重ね合わせて微笑ましく思っていたが,容赦なくお腹を締めつける腕ににかなり苦しくなって来た。
笑ってる場合じゃないなと思って宗太郎を見下ろした時,土方の手が宗太郎の頭を鷲掴みにした。
「おい泣き虫。」
土方は宗太郎の目線に合わせて腰を落とすと,子供相手にも関わらず鋭い目でじろりと睨む。
「こいつが嫁に行ってガキつくってお前を忘れちまうのと,俺らの元で働いてたまの休みにお前に会いに来るのとどっちがいいんだよ。」
突然与えられた選択肢に泣き声がぴたりと止んだ。
「そんなん…忘れられる方が嫌や。」
しゃくりあげながらも宗太郎は口を尖らせ土方を睨み返した。
「だろ?こいつは嫁に来るんじゃねぇ働きに来るんだ,お前の事を忘れるもんか。
だから遊びに来るまで泣かずに待ってろ。」
鷲掴みにした頭をがしがしと乱暴に撫でると,小さな頭が頷いた。
「三津…。」
宗太郎はごしごし目をこすって三津を見上げる。
「絶対遊びに来るって約束しろ。」
「うん,絶対来るからね。」
当たり前じゃないか,何処に行っても必ず来るよ。
やんわりと笑って約束を交わして,三津はとうとう町を出る。
泣き疲れた顔の宗太郎と近所のみんなに見送られて,新しい一歩を踏み出した。
「さぁ三津さん,宗太郎くんの為にも町から屯所までの道を覚えて下さいね!」
人をからかう総司は子供同然の笑顔。
「そうだ,こいつ町に住んでやがるのに通りの名の一つも言えやしねぇ。
頭の中どうなってんだ。」