「ここに来て……凄く楽しいです。みんな優しくて京や阿弥陀寺以外にも居場所が出来たって思えて嬉しい……。毎日楽しいのに,楽しい記憶が増える度にあの人との思い出も膨らむんです。
気にしないようにすれば逆に存在が膨れ上がって……。」
声を震わせ涙目になった三津の手を取り,一之助は人目につかないよう土壁の影に引き込んだ。
「大丈夫泣いていい。ここなら見えんけぇ。」
一之助は自分の体を壁にして静かに涙する三津を隠した。
「あれは進展と取っていい?」 https://plaza.rakuten.co.jp/mathewanderson/diary/202403300000/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/3b8e5c04a8906433f9753c9dd4644884 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/03/30/191440?_gl=1*izuf71*_gcl_au*NjYyNTYyMDMxLjE3MDkwNDE3OTU.
「一之助さんが女子にあんな振る舞いするの初めて見たわ。」
「姉上はちょっと傾きますかね?」
物陰からひょっこり顔を出したすみと文,フサは見つからないように二人の様子を観察した。
三津と一之助が二人で初詣だなんて面白い事この上ないと尾行してここまでついて来た。
「一之助さんにしたらかなりの進歩よ。女子と二人で出かけちょるんやけぇ。」
これは明日冷やかしの的だと文は笑った。
年が明けて三津は一之助と約束通り初詣に来た。
「本当に俺なんかと来て良かったんか?」
「はい!私は嬉しいですけど……一之助さんこそ毎日お店で顔合わせてるのに新年早々私と一緒でいいんですか?たまには別の女の子と出掛けたり……。」
三津が最後まで言い終わる前にカッと目を見開いて,
「絶対嫌じゃ!」
と声を張り上げた。その気迫に三津はすみませんと仰け反りながら謝った。
「女子は好かん……。」
「あー私は女として色気欠けてるのは自負してます。」
「違っ!女として見とらんって意味やなくてっ!いや!だからと言ってそういう目で見ちょるんでもなくてっ!」
急にあたふたしだした姿にぽかんとしてからふっと吹き出した。
「分かってますよ。女とかやなくて仕事仲間として見てくれてはるんですよね?」
「まぁ……そう言う事や……。去年は入江さんとお参りしたんか?」
「去年……そうです。九一さんと二人で迎えた元日でしたね。その時私は幕府側に追われてたんで外に出るのが憚られたんですけど,九一さんは私の事考えながらあちこち連れ出してくれて……。」
三津はその思い出に目を細めた。その穏やかな横顔に一之助の胸は締め付けられた。入江を思い浮かべてあの顔をしてるのかと思うと苦しくなった。
「桂様との思い出は……。」
そこまで言葉にしてハッと口を手で押さえた。
「あの人とは……。あるようなないような……。」
『あの人って……。』
酔って本音を出した時は“小五郎さん”と言っていたのに今はその名すら言わない。
「すまん……。あっ三津さん甘酒好き?お参りしたら飲んでかん?」
一之助はおどおどしながらすぐ近くの茶屋を指差した。三津はにっと笑って飲みたいと言った。その表情に一之助はほっと胸を撫で下ろした。
参拝した後で二人は甘酒片手に長椅子に腰を下ろした。一之助は湯気の立つ器にふぅふぅと息をかけて口をつける姿を眺めた。
『咄嗟に思いついて飲んどるけど……。これ子孫繁栄とかの縁起物やったような……。』
「三津さん甘酒飲む意味知っとる?」
「体に良いですよね。夏によく飲んでましたよ。」
『良かった……変な意味に捉えられとらんかった……。』
ただ誰かに見られていたら冷やかしの元になる。それは厄介だ。
でもちらりと横目で見れば,美味しいねと無邪気に笑う顔にどうにでもなるかと思ってしまった。
「飲んだら帰ろか。」
「はい。」
「ちょっと散歩して帰ろか。」
ちょっとだけ欲を出した。少しだけ川沿いを散歩した。三津はにこにこしながらついて来たが,たまに物憂げに川を見つめた。その様子が一之助には引っかかった。
「川に何か思い出あるんか?」
「ちょっとだけ……。ここやなくて京の川ですけど……。」
「まだ好きやのにそんな無理して忘れないけんそ?」
一之助はまたハッとして手で口を押さえた。何でもかんでも思った事を吐き出す癖を何とかしなければと思いながら三津の様子を窺った。