強引に手を引かれ,三津は吉田だけを背負って連れ去られるように京へ旅立った。 「まさかお三津ちゃんが桂様のお相手やったとは……。」 「嘘ついてごめんなさい。」 呆然とするしずに文は頭を下げて謝ったが,しずと次郎はこんなの悪い嘘じゃないと笑って許した。 「でも九一君は?どう見ても恋仲に見えたんやけど。」 「あれはあれで特殊な関係で……。普通の恋が出来ん男やけぇ不憫やわ。」 https://mathewanderson7.pixnet.net/blog/post/145258474 http://mathewanderson.e-monsite.com/blog/--1.html https://www.evernote.com/shard/s514/sh/5df8d78c-ebf2-1af3-62cd-c7956909db60/wK2HxfZOgOJVdgEKgM_1frIQWe8_pjzIxudx5RtW15Ndby0rn7VoxpJeKw 「それで言うたら一之助もやけぇお三津ちゃんは厄介な男に好かれるんやねぇ。」 「確かに。」 しずと文がにやつきながら一之助を見た。それに気付いた一之助はむっとした顔で二人を睨んだ。 「何や。俺は三津さん好きやないぞ。」 「またまた。お三津ちゃんがまた危ない目に遭わんように朝も偶然会ったふりして一緒に来よる癖に。」 しずは知ってるぞと口角を持ち上げた。三津はそれに気付いてないから黙っといてやると完全に弱みを握った。 「それは!俺が安易に初詣誘ってもたけぇまた何かあっても悪いし,俺も後味悪いけぇ……。」 顔を真っ赤にしてしどろもどろになる一之助を初心だなぁと二人は笑い,次郎はからかわないでやっておくれと苦笑した。 それから文はふと思い出した。京にも三津に好意を持って追い回す輩がいたなと。 『無事帰っておいでね。あなた,吉田さん。どうか三津さんを見守って下さい。どうか無事に帰して下さい。』 文は空に祈りを捧げ,それから表情を引き締めた。 三津が安心して戻って来られる場所を用意するのが自分の役目だ。 『いつまでこの状態続ける気じゃ……。』 小松帯刀邸の一室。向かい合う西郷と桂。その間に坂本は座して重い沈黙に耐えていた。 『西郷さんもよう堪えちょる。激怒して出ていかんのを見たら手を組む気でおるんは分かるやろうに……。』 ただ一言“よろしく頼む”とでも言って桂が頭を下げてくれたら先に進めるのに。 『両者の因縁見たらそんな簡単な話でもないんやろうが……。中岡が発ってもう八日か?ちと遅くはないか?』 坂本は腕を組み,手は袖に突っ込んで険しい顔をした。 「厠へ……。」 西郷がそれだけを告げて静かに席を立った。部屋を出た瞬間に坂本は大きく息を吐いた。 「桂さん,何でお嬢ちゃん連れて来んかったが?精神的に参るやろ……。」 その言葉に桂も深い溜息をついた。 「三津は……もう私の元には居ないんだよ。阿弥陀寺を出て行って行方知れずだ。」 「は!?何でそれを早よ言わん!!いつじゃ!?いつからおらんのや!?」 思わず声を荒げて桂に詰め寄った。桂は険しい顔で眉間を指で押さえた。 「もう二月……三月にはなるか……。」 「そんなに……何でまた……。」 「私が不甲斐ないから……。ただそれだけです。」 そう言って桂は目を伏せた。そういう事かと坂本はやっと事態を把握できた。 『こりゃいかん……そりゃ中岡は帰って来んわ。参った……。』 坂本は頭を掻きむしって唸り声を上げた。桂を叱咤して奮い立たせられるのは三津しかいないと思っていたのに。 その時廊下の軋む音がして坂本は元の位置に戻った。 戻って来た西郷はまた静かに座って桂が口を開くのを黙って待った。 それからただ時間だけが刻々と流れ,時折坂本が耐え切れず頭を掻きむしる音だけがした。 たまに女中がお茶を取り替えに来るが居心地の悪さにすぐにお茶を飲み干す坂本はひたすらこの時間を耐えた。出来れば酒を飲みたいと思った。 『今日もこれでお開きにした方がええやろ……。』 気力の限界じゃと坂本が口を開こうとした時廊下を走る音がした。 それに期待した坂本は立ち上がって障子を開いた。 「すまん!遅くなった!慌ただしくして申し訳ない,坂本ちっと!」 全力でこちらに戻って来たと思われる中岡は息を切らしながらも笑顔で西郷と桂に詫びて坂本を部屋から引っ張り出した。 「すまん!二人の事情さっき知ったがや!」 坂本はすまん悪かったと手を合わせて中岡に謝った。 「聞いたが?私も向こう行ってたまげた。でも見つけて来た。」 中岡は気にするなと歯を見せて笑った。