常に死とは隣り合わせだ。いつどうなるか分からないのは充分知っているのに,また悔いが残った。
悔いよりも無念と言うべきか。いや,そんな言葉では収まらない。
悲運だったとしか言いようがなかったとしても,それで片付けたくはない。
「絶対許さへん……。武人さんに酷い事した奴ら許さへん……。」 https://janessa.e-monsite.com/blog/--109.html https://www.evernote.com/shard/s729/sh/cc82d782-c53a-bbfb-30f1-9c3c7ae08d44/qyowImTqGuzKx97KFIfo4FU69UBFav5w8_B5Fh2QAMREM5GXs0h7RGUXpw https://blog.udn.com/79ce0388/180552888
伊藤の背中に手を置いて,三津は嗚咽した。
「三津,恨みはまた恨みを呼ぶ。その醜い渦に飛び込むのは止めてくれ。赤禰君の無念は我々が晴らす。
ここのみんなは赤禰君の無実を信じている。それだけでも彼は嬉しいと思う。だから今は赤禰君に心で伝えてあげてくれ。みんな君を信じてると。」
桂は三津の肩を抱いて頬をすり寄せた。三津は唇を噛み締めて頷いた。
赤禰の魂が少しでも安らかに召されるように,三津は祈った。その晩,泣き疲れた三津は桂の腕の中で眠った。
絶えず髪を撫でてくれる手に安心感を抱いた。この温もりを逃さないように,しっかりと桂の寝間着を握っていた。
いつも通り目覚める明け方の頃だった。
『泣かせてごめん。』
三津はその声で目を覚ました。桂の独り言かと思ったが,桂は寝息を立てていた。
夢だったのかもしれない。三津はそう自分を納得させて静かに寝床を抜け出した。
今日はセツよりも先に台所に入った。昨夜はあれから女中の仕事を何一つしなかった。セツだって傷心だろうに任せっきりになってしまった。
『私肝心な時に自分の仕事全然してない……。』
赤禰も自分のやるべき事を貫いたのだから私もしっかりせねばと,冷たい井戸水で顔を洗って気合を入れ直した。
「あら,お三津ちゃん早いやないの。」
「セツさん,昨日はすみません。今日はしっかりやりますんで。」
深々と頭を下げたがセツはいいのよと言って笑っていた。でもその顔はどこか疲れていて,腫れぼったい目は赤禰を想って泣き続けたんだと分かった。
起きて広間に集まってきた誰もが同じような顔をしていた。それを見た高杉はふぅと息をついた。
「今日は訓練やらんけぇ好きに過ごせ。」
これじゃあ士気も上がらんわと吐き捨てた。みんなは高杉が苛立ってると思い,自然と距離を取った。
「気分転換に散歩行きますか?」
三津は自然と声をかけていた。高杉の顔を覗き込んで返事を待つけど,高杉はぽかんとしたままで二人は近距離で見つめ合う状態になった。
「何や抱かれる気になったか。」
「もうちょい魅力的な面見せてくれたら考えます。洗濯と掃除終わったら行きますからね。」
三津は朝は忙しいから後でねといつもの仕事に戻った。
高杉は訓練しなければやる事がないから手伝ってやると洗濯物を一緒に干した。
「藩邸に居た時の事思い出しますね。」
「そうやな。あん時は三津さん振り向かせようと必死やったな。」
「既に奥さんおった癖に。」
危うく妾にされるとこだったわと三津は口を尖らせ,高杉はいいやないかと他人事みたいに笑った。
「そんな三津さんが今や九一を愛人にしとるとはな。」
「そんなつもりないですけどね。」
そんなつもりはないけど傍から見ればそう見えて当たり前なんだろうな。改めて変な関係を築いてしまったと思った。
三人でさっさと仕事を終わらせて三津と高杉は二人で散歩に出た。
「んで,どこ行くそ?」
高杉は三津に何か考えでもあるのかと出方を窺った。
「お酒買いに行きます。」昼間っから散歩で酒を買いに行くとは。三津らしからぬ事を言い出したなと高杉は目を丸くした。
「俺手持ちないぞ。」
「大丈夫です。向こうで稼いだ給金持って来てますから。それに誘ったの私やし。」
「いや,女に奢られるのは癪に障る。」
「そこも大丈夫です。高杉さんの為に買うんやないんで。」
三津はつべこべ言わずについて来いと高杉の前を歩いた。高杉は高杉で,俺の先を行くんじゃないと三津を追い越した。
「女は男の三歩後ろに居ろって事ですか?」
女を下に見てるからそう言ってるのだと思った三津はあからさまに嫌そうな顔をした。