正しく言えば、眺めていたのは光ではなく、それを操る主の方であったが。
「姫様!どうぞお止め下さいませ、危のうございます!」
「左様でございます。なさるなら、せめて、ちゃんとした御指南役をお付け下さいませんと…!」http://jennifer92.livedoor.blog/archives/36094217.html https://note.com/ayumu6567/n/n99091aac9115?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/archive/4357-1.html
縁から三保野とお菜津が口々に告げると
「平気じゃ! この乱戦の世に生まれたおなごたる者、薙刀(なぎなた)の一つも振えぬようでは、いざという時に敵に立ち向かえぬ!」
濃姫は叫びながら、日を浴びてギラリと光る薙刀の切っ先を、前方、斜め左右へと瞬時に突き出した。
「それに、我が殿は武芸に優れたお方。その正室である私が、いつまでも武芸が不得手では格好が付かぬ故な!」
シュッと、また一つ空を斬った。
濃姫は着物をたすき掛けにし、薙刀もしっかりと両手で握り締めて、気合いだけは十分に見せているのだが、
何分 薙刀を突き出す腕の力が弱々しく、途中でよろけそうになる事もしばしばで…
お世辞にも安心して見られる稽古風景とは、言い難かった。
それでも庭中の樹木を斬り倒すかの如き勢いで、薙刀を振り回し続けるものだから
「あぁ!!」
「姫様!お気をつけを!!」
侍女たちは両手を前に伸ばして、幾度となく姫を制するような姿勢をとっていた。
「──何じゃ、棒振り遊びか?」
不意に聞き慣れた男の声が、横の廊下から響いた。
濃姫が思わず動きをとめて、踵を返すと、黒い獣の毛皮を羽織った信長が、柿を頬張りながらこちらの様子を眺めていた。
「まぁ殿、鷹狩りからお戻りでございましたか」
「つい今しがたな」
「こんなところを見られてしまい…、お恥ずかしい限りです」
姫は軽くにこつき、夫の方へ歩み寄った。
「謙遜致すな。初めての棒振り遊びにしては、上手い方であったぞ」
「からかわないで下さいませ。これでも、真剣に稽古しているのですから」
信長は快活に笑った。
「それは悪かったな。──に致しても、武芸嫌いのそなたが薙刀の稽古とは、どういう風の吹き回しじゃ?」
「私は何も武芸が嫌いな訳ではありませぬ。ただ、不得手なだけでございます」
濃姫はそう述べるなり、再び庭の中央へと戻り、手にしている薙刀を今一度構えた。
「されど、その不得手を得手に変えたいと思い立ち、今このように稽古に励んでいる次第でございます」
言いながら、またシュッ、シュッと、宙に薙刀を突いてゆく。
「それは殊勝な心掛けじゃが…、また何故の理由から、急にそのようなことを思い立ったのだ?」
「あら、急ではございませんよ。以前から──、天下統一の夢を殿から伺った時から、ずっとやらなければと思うておりました」
「何じゃと」
「濃には難しいことは分かりませぬが、殿が天下統一を目指されることは即ち、これから数多くの戦をなされるということ。
さすれば、殿の居城に敵軍が乗り込んで来るという事態も起こり得ましょう。
私は正室として、この奥御殿をお守りする義務がございます。故に万が一に備えて、
薙刀くらいは使えるようにならねばと思い、かように稽古を致しておりまする」
「……」
「それに何より、私は織田信長の妻なのです。少しくらいは、あなた様に似合うおなごにならなければ」
姫は軽く信長に顔に向け、ニコリと微笑んだ。
「はっ、蝮の娘が生意気な口を利きおって」
信長は皮肉混じりに言うものの、その面差しは、如何(いか)にも嬉しそうに綻んでいた。
そんな夫を尻目に、濃姫はぎこちなく薙刀を振り続ける。
シュ…シュ…シュ