「くだらぬ──。たかだか傅役一人が腹を切ったくらいの事で、何をそんなに慌てる必要がある!?」
道三が告げると、やおら一同は渋い表情になり
「大いにございます!織田と同盟を結んだ頃は、まだ“尾張の虎”と恐れられし信秀公がご存命であり、https://plaza.rakuten.co.jp/carinacyril786/diary/202406210000/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/86f17386f433a58a6de5023821d2296f https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/06/21/211438?_gl=1*8bomx9*_gcl_au*MTY2OTkwNTc4OC4xNzE4OTcyMTIz
両国の同盟を中心となって取り結んだ、扇の要とも言うべき平手殿もご健在にございました」
「左様。あの頃の織田には、共に東国に立ち向かえるだけの隠然たる力がございました故、
我々も安んじて姫様を尾張へ送り出したのでございます」
「されどその信秀公が身罷り、更には同盟の中心であった平手殿までが亡くなった今、
もはや織田との同盟によって、こちらが得られる物は何もありませぬ」
「何しろ今の当主は大うつけと嘲られる、あの信長。そのような阿呆ぉと手を結び続けるのは得策ではございませぬ」
「大方平手殿とて、信長殿のうつけぶりに悲観して自刃の道を選ばれたのでございましょう」
「ここはいっそ同盟など反故にし、尾張一円を奪い取るべく、急ぎ兵を差し向けるべきかと!」
家臣たちは遠慮というものも忘れ、口々に申し述べた。
「控えよ皆の者!殿の御前で無礼であろう!」
堪らずに、上段の最前に控えていた堀田道空が一喝すると、一同はふっと我に返ったような顔をして、慌てて口を閉じた。
「まったく、そちたちは!」
「まあ良い、道空。確かにこの者たちの申す事も一理ある」
「殿…っ」
「この儂とて一時は、信長がまことのうつけ者であれば、隙を見て尾張を我が物にしようと考えた事がある」
殿は我らの意を得たりと、家臣たちは思わず頷き合った。
「じゃがそれは、その噂が確かなればこその事。もしも織田信長という男に、
儂が後ろ楯として付き続けるだけの才覚が備わっておったとしたら……如何じゃ?」
思いがけない言葉に一同からザワめきが立った。
「信長殿に才覚…」
「ならば殿は、信長殿がうつけ者ではないと、そうお思いなのですか!?」
家臣に問われ、道三はカッカッカと小気味良い笑い声を響かせた。
「応よ。予てよりそう思うておる。それを知る術の一つとして、帰蝶を信長にくれてやったのじゃ」
道三は唖然とする家臣たちを尻目に、真新しい一通の書状を懐から取り出すと、
戦場で刀をかざす勇将の如く、それを高々と真上に振り上げた。
書状の上包みには美しい書体で『御父上様へ』と記されている。
「先達て帰蝶から届いた文じゃ」
家臣たちの目が一斉に、包まれたままの書状に向く。
「ここに、此度の平手政秀の自刃はあくまでも本人の意思によるものであり、信長殿が引き起こした悲劇ではない事。
また信長殿は、三国※一と申しても過言ではなき利発者故、必ずや儂の意志に沿うてくれるであろうと、そう書かれておる」
一同は思わず「おぉ…」と小さな驚きの声を漏らした。
「帰蝶には輿入れ前に散々言い聞かせておいた故、誤った見極めなどしておらぬであろうが、あれも女じゃ。
美丈夫と評判の信長殿から夜毎に愛撫を受けておれば、以前に比べ、目もいくらか曇ったやも知れぬ」
姫の言葉を易々と鵜呑みには出来ぬと、道三は慎重な姿勢を取った。
「織田信長……果たして噂通りのうつけか、はたまた類い稀なる才覚の持ち主か。