沖田は前川邸の門を出ると空を見上げた。
すると、掃き掃除をする桜花と目が合う。沖田は何処か気まずさを覚えた。
何故ならと言うと、昨晩の夢で桜花が雨に打たれながら泣いていたからである。自身は柱の影に隠れて何も出来なかった。
「沖田先生、おはようございます」
「あ…。おはようございます。貴方はいつ見ても元気が良いですね。私は貴方のせいで寝不足です」
沖田は苦笑いをする。身に覚えのない桜花は怪訝そうな表情を浮かべた。
「私、沖田先生に何かしましたっけ…。子ども達との鬼ごっこで捕まえただけですよね」
「新撰組は元は町民の家を屯所としていると聞く。間者の報告によると、幹部がいるのは前川邸と呼ばれる屋敷。ここは住民は居ないとのことだ。平隊士がいるのは八木邸と呼ばれる屋敷。ここは未だ住民が残っているらしい」
桂は顎に手を当て、そう発言した。
「新撰組に与する者は町民であろうと同罪。諸共皆殺しで良いのでは無いか」
宮部は腕を組み、興味が無さそうに告げた。
その言葉に吉田は拳を握る。新撰組の事はどうでもいいが、桜花までも巻き込まれてしまうのは嫌だった。
「町民もですか。それは…」
「そもそも京の町に火を付けようっちゅう計画やのに、町民の心配やなんてどうかしてはるわ。ましてや、相手は新撰組に与する町民や。何か都合の悪いことでもあるんか、吉田殿」
古高は非難めいた視線を向ける。吉田は歯噛みすると、首を横に振った。
「失礼しました。僕の覚悟が足りんかったです」
頭を下げると、こう決心する。
もう時間がない。もしも僕と共に国へ来てくれると言うのであれば…祇園祭の日に桜花さんを攫ってしまおう。
「ふん…。後は御所内改革や。風の強い日を御所に火を放ち、中川宮を幽閉。こればかりはお天道さん次第やな。少なくとも明日は天気良さそうやから無理や」
「はい。そして我々長州藩主の上洛ですな。こちらについては国へ向かった久坂という同志が説得しております」
古高はそれらの内容を紙面に纏めた。
何故証拠となりうるものをわざわざ作成するのか理解出来ないと思ったが、これ以上口を出せば雰囲気が悪くなると思い、吉田は閉口する。
会合は終了し、吉田は帰路に着いた。
小路を選び、周囲に警戒する。すると、夜でも鮮やかに見える浅葱色の隊服を視界に捉えた。
息を殺し、影に潜む。
近くをその集団が通った瞬間、吉田は右胸の刻印にある違和感を感じ目を細めた。
新撰組が通り過ぎ、姿が見えなくなったのを確認してから道に出る。
「まさか…新撰組に居るというのか…?」
桜花でも無い、別の反応が微かにした。
薄緑と鬼切丸のように対の刀ではないため、ハッキリとした確信は持てない。
最後の刀、六月五日、早朝。
武装をした武田は隊士を複数名連れて桝屋へ向かった。閉められた戸を強く叩く。
「桝屋の主人はいるか!」
あまりの剣幕に寝ぼけ眼を擦りながら、丁稚が戸を開けた。
「ひ…っ!新撰組!ご主人、ご主人!新撰組や!ごしゅ…ぐあっ!」
目を見開く丁稚を武田は殴り飛ばす。富途信託 興味無さそうに一瞥すると、桝屋へ踏み込んだ。
「御用改めである!桝屋喜右衛門の身柄を拘束する!」
武田はそう叫ぶと、隊士に指示を出しながら土足で店内に踏み込んでいく。