沖田は口元に薄く笑みを浮かべ、目を細めた。土方はフン、と鼻を鳴らすと興味が無いと言った風に視線を墓へ戻す。 「俺らなんぞに墓建てて貰っても喜ばねェだろうな」 「でしょうね。…いや、存外悪くないと思っているかも知れません」 雨足が徐々に強まっていく。何処かで雷鳴が聞こえた。 「…それは何故だ」 「墓には魂が宿ると云うでしょう。そうすれば芹沢さん達は此処に居ることになる。何時でも私達の事を見張れますからね」 沖田の言葉に土方は舌打ちをする。www.nuhart.com.hk/zh/ そして顔を上げ、稲光を睨んだ。 「…上等じゃねえか」 そんな二人の背中を遠くから桜花は見つめていた。 供え用の酒を持ってくるように言われたが、近付ける雰囲気では無かったのである。 雨足が強くなる中、足音が近付いてきた。 「…この様な所で何をしているのだ」 斎藤である。いつもよりも神妙な面持ちで立っていた。 「斎藤先生。お酒を持ってくるようにと言われたのですが、何だか近寄り難いというか…」 桜花に言われ、斎藤は二人がいる方を向く。確かにその背は何処か遠かった。 「…確かにな。ならば、俺が持って行こう」 斎藤は桜花の手から を取り上げると、歩き出す。 そして土方に手渡すと、直ぐに桜花の方へ戻ってきた。 「斎藤先生は手を合わせなくて良いのですか」 「…俺は後で良い。そこまで思い入れの強い人達では無い故。行くぞ」 斎藤の声に反応しつつ、桜花は去り際に再度沖田や土方を見る。沖田の表情は何処か複雑そうだった。土方は何処か憎悪のような、悲しみのような表情で。 桜花は背筋が寒くなるのを感じた。 「…気になるか。墓の人物が」 斎藤は横目で桜花を見遣ると、そう呟く。 桜花は少し考えた後に小さく頷いた。 「…そうか、ならば俺の買い物に付き合ってくれぬか。そうしたら道すがら教えてやろう」 「…行きます」 桜花は頷くと刀だけ取りに戻り、斎藤と共に街へ出る。が真だったら、どうしたのだ」 斎藤は試すような視線を向けた。桜花は少し考え込むと、言葉を選んで慎重に発言をする。 「…私がとやかく言うことでは無いとは思います。その場に居た訳でも無いですし。その時の止むを得ない理由があったのではないかと考えますかね」 返答が良かったのか、斎藤は少し驚いたような視線を向けた。 「……そうだな。あんたの言う通りだと、思う。憶測や見聞で非難するのは筋違いだ」 やがて、筆屋の前に足を止めると、斎藤は店の中へ入っていく。桜花は軒下にて雨宿りをして待っていた。その脳裏には先程の会話が浮かぶ。 恐らく、芹沢鴨という人物は新撰組によって殺されたのだろう。 『あの時もこの様な天気だった』 普通、他殺であれば具体的に天気まで覚えていることは少ない。 『そこまで思い入れの強い人達では無い故』 ましてや、さして興味の無い人の暗殺について詳しく覚えているだろうか。 そして先程見た土方副長の表情がそれを肯定していた。 だが何故それを私に話す気になったのか。試されているのだろうか。 桜花はそのような事を思いながら空を見上げた。 「…待たせた」 そこへ斎藤が暖簾を潜って戻ってくる。 傘を広げ、軒先から出るとふと視界に再建途中の家屋が入ってきた。 どんどん焼けの被害にあった街並みが徐々にその姿を取り戻そうとしている。 業火に包まれたようなあの時の光景が、今でもありありと目に浮かんだ。 その視線に気付いたのか、斎藤も其方を見遣る。 「気になるか」 「気になるというか…。あの時の火事は酷かったですから」 「我々が未然に防いだ筈の大火なのだが…。思想に民が巻き込まれてしまうのは…痛ましい」 そう呟いた斎藤は何処か寂しそうだった。 それもその筈で池田屋騒動で防いだものが、結果的にその報復として引き起こされてしまったのである。