そこには既に見送りをしようとする隊士達の姿が疎らにあった。ついに出立の刻が来たのかと緊張で手が震える。
前をしっかりと向いて歩き出すと、植髮 土方の横には永倉と沖田の姿があった。
山野、馬越、松原と挨拶をした桜司郎はその方へ足を向ける。
それに気付いた沖田は淡い笑みを浮かべた。二人は向かい合うように立つ。口を開いたのは沖田だった。
「桜司郎さん、立派にお務めを果たして来て下さい。……道中も、稽古を怠らないように。貴女なら心配は要らないと思いますが」
何時しか桜司郎の存在が自身の中で少しずつ大きくなっている。試衛館の同胞とは別の存在として。
それに気付いた沖田は、胸の中にじんわりと広がる寂しさを誤魔化すように気丈に振る舞う。
もし道中で女子だと発覚すれば、もし不慮の事故にあえば、もう二度と会えなくなる可能性だってあるのだ。
「はい」
笑みを返しながら、桜司郎は短く返事をして口を閉じる。本当はもっと話したいことがあった。
あの夜に沖田は何を思ったのか、何が不安なのか。
だがそれを話している余裕は無い。
いつしか江戸へ立つ面々が総門で桜司郎のことを待っていたのだ。まだか、という土方の声が聞こえてきそうだった。
「では。行って参ります」
桜司郎はそう言うと、沖田へ背を向けて土方らの方へ向かって歩き出す。
二人の間を桜の花弁が風に吹かれて舞い落ちた。
どんどん背中が遠ざかるのを見送りながら、沖田は何かを言いたげに唇を動かす。発しようか迷っていると、ポンとその肩を近くにいた近藤が叩いた。
「どうした、総司。何か言い足りない事があるのなら、今のうちだぞ」
「近藤先生……」
それに背中を押されるようにして、沖田は一歩踏み出す。そして息を吸った。
「桜司郎さんッ」
その背に呼び掛けると、不意のそれに驚いたように桜司郎は目を丸くして振り向く。沖田は地面を蹴って再び駆け寄った。
「必ず、帰って来なさい。……私のところへ。これは一番組頭の命です」
沖田の言葉に、桜司郎はみるみる驚きの表情から笑顔へと変わっていく。
「……はいッ。沖田先生の元へ戻って来ます!」
そう嬉しそうに言う桜司郎は、まるで凛と咲く花のようだった。
そして今度こそ桜司郎は土方らの元へ向かう。その足取りは、「これが江戸……」
桜司郎は目を細めて辺りを見渡す。江戸の街というのは、人々の気性のせいだろうか何処と無く忙しない。
威勢の良い八百屋の呼び掛け、行き交う町娘たち。どれを取っても京とは異なっていた。まるで乾いた風のようにサバサバとしている。
将軍のお膝元という自負、いやその環境が当たり前の物として育ってきたからなのか、二本差しを恐れる様子は微塵とも見られなかった。
近藤を始めとした所謂試衛館の出の人達はこの空気の中で育ってきたからこそ、あれ程までに人懐こいのかと納得する。
「キョロキョロすんじゃねえよ、みっともない」
物珍しそうな表情を終始浮かべる桜司郎へ、土方が声を掛けた。それにハッとすると桜司郎は恥ずかしげに肩を竦める。
隣を歩く伊東が面白そうにクスリと笑みを零した。
「ふふ……。いではないですか。素直に感情を表現することも、鈴木君の良さですよ」
伊東の言葉に、前を歩く土方は面白くなさそうにそっぽを向く。暖かい気候だというのに、この二人を取り巻く空気だけ冷たかった。
桜司郎は冷や汗をかきながら、伊東の顔を垣間見る。
全く気にしていないと言わんばかりに、飄々と涼し気に歩いていた。
永倉に藤堂と土方が衝突しないように見張れと言われたが、それ以前に伊東と土方が喧嘩しそうだとため息を吐く。
だが、 京にいる頃や道中よりかは土方も伊東も肩の力が抜けているように見えた。この穏やかな江戸の風のお陰なのか、それともその