再度歩みを進めていると、土方が口を開いた。
「おい、斎藤は分かっていると思うが。鈴木は姉の"とく"には気を付けろよ。やたらと勘が鋭いンだ。嘘も
という二番目の姉と仲が良かった。富途信託 日野の名士であり、今や新撰組の良き支援者であるしており、とくは彼の母親代わりだった。血筋なのか、弟を守らなければならないという境遇のせいか、きっぱりと物事を言う女性だった。
「優しいんだが、怒るとおっかねえよ」
そう言って笑いながら肩を竦める土方は、鬼の副長の仮面はすっかり外れている。夕陽に照らされて、影が伸びる頃に石田村へ踏み入れる。多摩川沿いにそこはあった。
土方は、行き交う人々に"歳さん"と親しみを込めて呼び掛けられており、桜司郎は驚きを隠せずにいる。
江戸に来てからの土方であれば納得ものだが、京での土方はむしろ遠巻きに見られているからだ。
「ちょっくら声を掛けてくるからよ、お前らはそこで待っててくれ」
本日の宿所として頼るつもりの、"日野宿本陣"に到着する。土方は先に中へ入っていき、斎藤と桜司郎は建物の前で立っていた。
「……驚いたか」
「え……あ、そう……ですね」
斎藤に声を掛けられた桜司郎は、しどろもどろになりながらも肯定する。斎藤は笑みを零すと土方が入っていった入口を見た。
「本当の副長は、土方さんはああいう人だ。誰からも好かれる、良い人さ」
その声色には全面的な信頼が込められている。
やがてそう時も経たないうちに土方が戻り、二人に家へ入るように促した。
本陣の入口には梅の花が咲き誇り、門を潜ると しい香りが鼻腔をくすぐる。
式台には気の強そうな目鼻立ちのハッキリとした美しい女性と、優しげだが威厳を感じる男性が出迎えるように立っていた。
一目見て、土方の姉だと分かる程に面影がある。
「……ご無沙汰しております、山口です。今は斎藤と名乗っておりますが」
「は、初めまして。新撰組隊士の鈴木桜司郎と申します。お世話になります」
斎藤に続いて、桜司郎も頭を下げた。
「遠路遥々、よくいらっしゃいましたね。お疲れでしょうから、我が家だと思って寛いでください。湯は沸かさせてますので」
にこやかに出迎えを受けると、足を洗って客用の部屋に案内される。
刀やら荷物やらを置き、旅装束を解くと、どっと疲れが湧いてきた。だが休む間も無く直ぐに や風呂へ案内される。
濡れた髪を手拭いで拭きながら、寝間着に身を包んだ桜司郎が部屋へ戻ってきた。
既に湯浴みを終えた土方と斎藤も同様の格好をしている。きっちり胸元を閉めている斎藤に対し、土方は意外とだらしなく開けていた。厚い胸板が視界に入り、桜司郎はそれとなく顔を背ける。
斎藤もまた、いつかの早朝や寝込みに襲撃しようとした時の胸の高鳴りを思い出し、桜司郎から視線を逸らした。
斎藤のそんな様子を見た土方は、桜司郎を見る。
烏の濡れ羽色のような髪を一つに纏めて肩に流し、それを手拭いで包んで拭く姿はまるで っぽい女の様だった。
寝間着の裾から除く白い手足はしっとりとしており、時折身体に布が張り付いては男のそれらしかぬ曲線美を見せている。
本当に男かと疑念が浮かんで来るが力強い太刀筋を思い出し、それを打ち消した。
ちなみに道中では、土方が伊東と同室になるのを嫌がったため、仕方なく桜司郎が伊東と同室になっていた。伊東は寝付きが