「そういや、あんた、太ったんじゃないのか、かっちゃん?」 上司に向かって、「あんた、中年太りだ。みっともねー」宣言をする副長。 「そうであろうな。飯がうまいから、つい。かくいう歳、おぬしもふっくらしたのではないのか?」 おあずけを喰らい、イライラマックスの永倉、原田、斎藤、島田、そして、おれ。 とつじょはじまった「局長の逆襲」に、を向ける。 肺癌症狀背痛「そんなわけねぇっ!」 って、ホントのことを指摘されるとキレる。 副長の怒鳴り声は、宿所がわりの庵の外にまで響き渡ったであろう。「いや、土方さん。たしかに、全体的に丸みを帯びたんじゃないのか?」 「そんなわけねぇっつってんだろうがあああっ、新八ぃぃぃっ!」 耳がきんきんするほどの怒鳴り声。しかも、腰を浮かしかけている。 「ああ、たしかに。ほっぺたなんぞ、ふにふにしたくなるほどふっくらしてるぞ」 「左之っ、てめぇっ!んなわけねぇだろうがあああっ。なにわけわかんねぇこといってやがる?喧嘩うってんのか、ごらあああああっ!」 いや、副長、昨夜の双子のこと以上に沸点超えてませんか? 「まぁまぁ副長、太ってもよいではありませぬか。たるもの、すこしくらいでっぷりしているほうが、迫力があってよろしいかと。まぁ副長は、いつでもじっと立って采配ふるうのみ。体躯に肉がつくのも無理からぬこと」 斎藤はさわやかな笑みを振りまきつつ、NGワード連続技を投げつけるという暴挙にでる。 「すごいな、斎藤・・・」 島田の、心からの讃辞。 そのとき、双子が入ってきた。おかわり用のお櫃や釜を胸元にかまえている。 このピリピリした空気を、即座に感じるところはさすがである。「副長、料理人にとって、みなさまの笑顔をみることがなによりの馳走。失礼ながら、みたかぎりでは以前のままでございます。は、錯覚を起こしやすいもの。どうか機嫌をなおしていただき、愉しく召し上がって下さい」 「お・・・おお・・・」 俊冬がいう。不思議と、その通りだと思えてくる。 あらためて、カレーについて説明する。最初はみな、躊躇した。が、おれが喰いだすとそれにつづく。 いや、これ、反則でしょう?めっちゃうめー。 刺激物にあまり縁のないみなにあわせ、辛さを控えているこのカレー。辛党のおれでも、心底うまいと思う。いままで喰ったカレーのなかで、親父のつくってくれたカレーのつぎにうまい。 おっと、親父の得意の料理、すなわち、じゃがいも、にんじん、たまねぎ、鶏肉を大量に準備し、三分の一はなんちゃって筑前煮に、三分の一はチキンカレーに、残る三分の一はシチューにし、それをタッパーに詰めて冷蔵庫や冷凍庫にストックする。このシングルファーザー料理の一つ、チキンカレー。これは、別物である。 ということは、それをのぞけば一番ってわけで・・・。 まろやかな辛みである。甘い、というのともちがう。コクがあるし、深みもある。鶏肉はやわらかく、口に入れるととけてしまう。玄米と白米を混ぜて炊いた飯にも、実によくあう。 これぞまさしく、「にっぽんのカレー!」である 「マジでうまいです。いやー、リクエスト、いえ、お願いしてよかった。涙がでるほどうれしいです。やっぱすごいですね、お二人方は」 「主計、そこまで褒めたたえてもらっても、われらは貧乏人ゆえなにもだせぬぞ」 「いやだな、俊冬殿。なにもみかえりなど求めていませんよ。レシピ、いえ、作り方、伝授してくださいよ。なにか、コツか隠し味があるんですか?」 「ふむ・・・。禁断の術にて、明かすことはできぬが・・・」 俊冬のニヒルな笑み。 「砂糖、干し柿を潰したもの、それから、赤ワインを・・・」 そういえば、リンゴをすりつぶしたものやチョコレート、砂糖といった甘いものを隠し味につかうときいたことがある。あと、ウスターソースなんかも。赤ワインもである。 さすが・・・。でも、赤ワイン?そういえば、昨夜のフレンチでも赤ワインがつかわれていた。 「上様秘蔵の赤ワイン。仏軍の士官がもってきたもの。それを、無期限に拝借した」 「はあ?それって、勝手に、ってか、盗ん・・・」 「人ぎきの悪いことを申すな、主計。赤と白の区別もつかぬ上様の所持品。このまま捨て置いても、ワインがかわいそうだ」 ってか、俊冬との会話も、みな、喰うのに必死で耳にはいっちゃいない。 副長まで、皿から流し込んでる。 そりゃぁ太るわ、な・・・。 うまい料理をみなで喰う。これほど幸せなことはない。 おっと、もちろん、相棒もおすそわけ。「スープカレー風味沢庵ぞえ」に、俊春がしてくれた。 相棒も、幸せをかみしめながら、犬喰いしてる。