「それから、かれは耳の調子がよくないんです」 こちらは告げなくてもいいことである。わざわざ弱点を教えてやることもない。が、結局、告げておいた。 さっきのおれの様子で、篠原は『ん?』って思ったであろう。そして、『もしかして?』って疑念を抱いたかもしれない。もっとも、その疑問を解消すべく、時間をさいてまで調べるようなことはしないであろうし、https://freelance1.hatenablog.com/entry/2023/08/23/141746?_gl=1*lvi934*_gcl_au*NDk5MTMyMTEwLjE2OTI0NTg3NDE. https://ameblo.jp/freelance12/entry-12817423080.html
https://www.liveinternet.ru/users/freelance12/post500834334// しったところで弱点をついてくることはしないはず。 万が一にも調べ上げ、俊春の弱点を突いてきたところで、俊春がやられるわけもない。これは、絶対にそうといいきれる。 それ以前に、篠原にしろ半次郎ちゃんにしろ、いかに敵であろうと弱点を突いてくるようなとは思えない。さらには、西郷もそういうことは望まないだろう。 とはいえ、かれらは西郷のためなら手段をいとわないはず。それこそ、汚い策を弄し、それを実行に移すことに躊躇はしない。万が一にも俊春の弱点をついてきたところで、俊春はぜったいに屈しないし、ましてや殺られることはない。 なにせかれは、日本一、いや、世界一の戦士なのだから。 いやいや。俊春にとっては、耳が聴こえぬのは弱点というほどのものではない。ささやかな障害である。傲慢な表現をすれば、敵にハンデをつけているようなものである。 結局、篠原はおれの告白にたいして「そうやったか」とつぶやくようにいっただけで、それ以上なんのリアクションもなかった。 みんなで蕎麦をいただいた。 おれたちはもちろんのこと、薩摩勢はうますぎて声もでぬようだ。 有馬が、西郷や仲間たちに蕎麦を食べさせたがったのはよく理解できる。それにしても、そのためにちゃんと準備していたというところがウケる。 もしかすると、招待された理由の一つがこれだったのかもしれない。なーんて邪推してしまう。 そんなことをかんがえていると、蕎麦をつくりおえて庭に控えている俊春と、蕎麦を喰いおえたお犬様が裏門のほうをみていることに気がついた。 「どなたかが、まいられたようでございます」 俊春が告げてからしばらくすると、向こうの方に黒い影が浮かび上がった。二つである。その影は、迷うことなくこちらへと向かってくる。 「ようやっきたようじゃ」 有馬がだれにともなくつぶやいたのと、「半次郎ちゃん」と若々しい声が響いたのが同時であった。 「半次郎ちゃん、半次郎ちゃん」 そして、灯のなかにあらわれたのは、半次郎ちゃんののはなれた従弟の別府晋介である。 「じゃっで、そんたやめ。頼んで、そんたやめたもんせ」 半次郎ちゃんは、真っ赤になって気色ばんでいる。 その様子がだいぶんとかわいい。それから、どれだけ叱られてもめげずに「半次郎ちゃん」と呼びつづける別府も、かなりかわいい。 室内にいる当人以外は、みんなうつむいて笑いをこらえている。 「そいに、まずはさぁに挨拶すっもんじゃろうが」 半次郎ちゃんは、真っ赤かになって怒鳴り散らしている。 斎藤といい「人斬り半次郎」といい、後世に伝わるイメージとはずいぶんとかけはなれている。 ってか、半次郎ちゃんは、別府が「半次郎ちゃん」と呼びまくるまではクールであった。 かれのイメージは、別府によって打ち破られたといっても過言ではない。「半次郎ちゃん、許したもんせ。じゃっどん、久しぶりなんや。じゃっで、うれしゅうてならんど、半次郎ちゃん」 そして、まったくめげない別府。ここまできたら、もはやわざと連発して嫌がらせをしているんじゃないか?と勘繰ってしまう。 「えーころかげんにしやんせ、晋介。さぁ、お久しぶりじゃ」 その別府の頭を平手ではたいたのは、あらわれたもう一人である。 この男のことも、おれはよくしっている。 士官服をまとったその体つきは、ずいぶんとがっちりしている。後世に残っている写真は、口髭に顎髭、揉み上げのものと、きれいさっぱり断髪したときのものであるが、いまはそのどちらでもない。とはいえ、の下半分は、くっきりはっきりと無精髭でおおわれている。太い眉も、写真のまんまである。イケメンというほどではないが、ソース顔が好みの女性には、ぴったりであろう。 軍服の第二ボタンまであけられていて、袖口もボタンをとめずにひらいている。 真っ赤なは、これもやはり後世に伝わっている酒好きを顕著にあらわしている。なにより、アルコールの強いにおいが、5、6mはなれている室内にまで漂ってきている。 これぞ薩摩藩の重鎮にして、明治期には内閣総理大臣を務めることになるである。 そして、かれはある意味では、と深くかかわりあうことになる人物である。 それにしても、黒田は北陸道鎮撫総督の参謀として、北陸方面に進軍しているはずではないのか? ちなみに、高倉永祜とは、公卿である。かれはたしか、この戦いがおわるまでに病没するはずである。アラサーくらいの