「いやー、城になにもねぇんだよね。白河城さ行げばんまぇものにありづげるがで思ったのだ。げんとも、あそごもがわらねぇ」 かれは「いただきます」、あるいはその日の糧を神に感謝することもなく、いきなり箸をとって料理にぱくつきはじめた。 どうやらかれは、武士の作法以前に それは兎も角、かれは、あきらかにとしてマナーがなっていないようにみうけられる。 『若松城に喰うものがないから白河城にいってみたが、そこにもなかった』 どこの城も、この戦に備えて糧食等確保しておかなければならない。贅沢ができるはずがない。 https://www.tumblr.com/debsysblog/728906726414401536/%E3%81%AE%E3%81%95%E3%81%8D%E3%81%AB%E3%81%AF%E3%81%8A%E3%82%8C%E3%81%8C%E3%81%84%E3%82%8B https://debsy.mozellosite.com/blog/params/post/401942/page https://keizo.anime-navi.net/Entry/54/ この男、なにをいっているんだ?って思わざるをえない。 もっとも、おれたちも今夜は贅沢をさせてもらっているから、かれを頭ごなしに非難することはできないのであるが。 「だぢがれえろいろぎいでる。なんでも、剣術教えでくれだどが」 かれは、料理をつぎからつぎへと口に放り込みつついう。 ってかあんた、ちゃんと料理を咀嚼しているか?味わっているか? 「ふんっ!」 日向は、豆腐ステーキに箸を伸ばすタイミングで鼻を鳴らした。 副長も斎藤も、ついでにおれも、鼻を鳴らしたかれの心をよむことができた。 『新撰組ごときがしゃしゃりでるんじゃない』 はっきりとそういっている。 かれは、この時点でアウトだ。 副長の機嫌を、完璧なまでに損ねてくれた。 俊春が大広間のほうからやってきた。 かれは開けっ放しの障子の向こうにあらわれたかと思うと、廊下に律儀に正座して控える。 おれは廊下側に座っているが、そのおれをよんだのであろう。かれはポーカーフェイスを保ったまま、わずかに頸を傾けた。『いかに会津武士が心身ともに強いか、藩主に忠誠を誓っており、最後まで戦い抜いて必ずや敵を討ち果たして勝利をつかむ。新撰組など、しょせん粗暴で力任せだけの集団であり、のごとき信念も忠誠ももちあわせてはいない』 そのあとも、日向はそんなようなことをリピート再生しつづけた。 かれは、戦況だけではなくあらゆる情報に疎いのだろうか。それとも、情報を得ているうえで、敵を過小評価しているのであろうか。 だとすれば、かれの脳内はお花畑なのかもしれない。 おれたちを呆れかえらせるのに、それだけでも十二分である。副長も斎藤も俊春も、右耳から左耳へとスルーしているみたいである。 正直、かれの持論などきくに値しないって心底思う。このまま戯言をききつづけたって、ときのムダってやつであろう。 かれは、いまやがっつきながら持論をぶちつづけている。 口のなかから食べかすが飛びだしているのが、部屋の燭台のほのかな灯りでもはっきりみてとれる。 一方で、副長も斎藤もおれも、一口も喰ってはいない。それどころか、箸に触れさえしていない。 とてもではないが、こんなにうまいものを心穏やかに喰えそうにないからである。これだったら、たとえ冷めきってしまっても、かれを追いだしてから喰ったほうがずっといい。心から堪能できる。 そんなことをかんがえていると、日向はますます増長しはじめた。 きわめつけに、こんなことをいいだしたのである。 『白虎隊はの集まりだが、敵とぶつけて相討ちさせればいい。しょせん。大人のようには役には立たぬ。だが、素直で単純だ。死んでこいといえば死んでくる。一太刀でも、一発でも喰らわせ、そのまま果てよと命じれば、全員は無理でもやり遂げる者はいるだろう』 刹那、殺気を感じた。 いや、ちがう。殺気を感じるだけでなく、おれも殺気を放っていた。 左太腿の側にある「之定」の鞘に、反射的に掌がのびていた。おれの視界の隅に、斎藤が「鬼神丸」の鞘を握りかけているのが映った。 副長はさすがに「兼定」に掌をのばすようなことはなかったが、憤怒のになっている。 噴火寸前の活火山状態ってわけである。 副長は、いまにも雷を落としそうである。 しかも、日向など跡形もなく消しとばしてしまいそうなレベルのおおきな雷である。 思わず、その雷に備えてしまった。 刹那、日向がフリーズした。膳の上にわずかに上半身をかたむけた姿勢のかれの箸の間から、豆腐ハンバーグが皿の上にぼとりと落下した。 「愚かなるよ。それ以上戯言を囀るのはやめよ」 低いささやきが、室内をゆっくり這ってゆく。 向こうの部屋から、笑い声がきこえてくる。大人の声、子どもの声がいりまじっている。 向こうは、ずいぶんと盛り上がっている。 「めっちゃうまい」 「こんなうまいものは喰ったことがない」 「ありがたいなぁ」 大人も子どもも、それぞれの方言で料理を称讃したり感謝しまくっている。 それらは、当然かつ自然な反応であろう。 はっとして意識をすぐ眼前へともどした。 一瞬、俊冬かと思った。声も台詞も似ていたからである。もちろん、俊冬なわけはない。 かれはいま、関西圏か、もしかすると中部地方あたりにいるかもしれないのだから。 日向に動きが戻った。