は、回転しながら飛んでゆく。そのため、回転しないと比較すれば、射程距離やあたったときの威力はダンチである。 ちなみに、会津藩や幕府軍のおおくが所持する銃は、ゲベール銃である。その射程距離は、ミニエー銃の約半分以下である。つまり、三百メートル以下である。 それは兎も角、あの杉の木は、すくなくみつもっても八町(約八百七十メートル)はありそうだ。 ミニエー銃の射程距離よりも遠い。 そこから狙う? ってか、だれが?
それ以前に、狙撃手はあんな距離からみることができるのか? 当然のことながら、ライフルスコープがあるわけではない。それをそのままの視力での眉間を撃ち抜くとすれば、それこそアフリカの「なんとか族」の戦士のごとき視力が必要になるだろう。 杉の木からを味方へと移してみた。この場からいなくなっている者はいない。 ってか、にそこまでの狙撃手はいない。 いや……。 いるにはいる。それは、ついさっき狙撃手の存在を明かした本人、つまり俊春である。 伝習隊にも、そこまでの腕の持ち主はいなさそうである。 ということは、会津藩の狙撃の名手でも配置しているのか? 機転の利く男俊春なら、そのくらいしていてもおかしくなさそうだ。もしかして、アフリカからアフリカ人傭兵でも呼びよせたってこともアリかもしれない。 「信じられぬか?」 俊春は、敵の至極当然の反応をいいあてた。 これはもう、生まれたてのピュアな心をもつ赤ん坊でも疑う事案である。 「なれば、おもしろき芸をみせてやろう」 かれは、そういうなり右掌をあげてくないをかざした。二度三度とそれを左右に振り、頭の高さでぴたりとその動きを止めた。 刹那、「カチンッ!」と金属がこすれあうような音がしたような気がした。そして、「パーン」という銃の発射音が、しばらく経ってから緊張漂う空気を震わせた。 あっと思う間もない。俊春は右掌のくないを、天にむかって放り投げたのである。 くないは、ゆっくりと天空へと舞い上がってゆく。それがある高さまで上昇すると、「引力の法則」に従い落下してきた。 「カチンッ!」「カチンッ!」「カチンッ!」 金属がこすれあう音がする度に、くないがくるくる回転しつつ跳ね上がる。 マジか? 俊春のいう狙撃手は、どこをどうやっているのかはわからないが、くないを撃ち、ヒットさせているのである。 三発目の銃声がきこえてきたときには、落下していたはずのくないは、再び大空高く舞っていた。 くないは最高地点まで舞うと、こんどは重みなどないかのようにゆっくり落下してゆく。「そして、わたしだ」 俊春の咆哮のような叫びが耳に入ってきた。 「カチンッ!」「カチンッ!」「カチンッ!」 狙撃の第二波である。 俊春がこちらを向き、左掌に握るくないをふるっている。 マジか? 狙撃手が撃ったを、くないで弾き飛ばしているのだ。 おそらく、であるが。 なにせ一瞬のことなので、みえるわけがない。創作の世界では、たいていそうするはずである。 以前、かれは刀で斬りをしたことがある。俊冬も同様である。かれらは弾道をみきわめることができる。 人気アニメのほうの「を斬ることができるのである。 おつぎは、くないでを弾き飛ばすという偉業をやってのけたのだ。 敵も味方もなにをみているのか、なにが起こっているのかわかっていない。 それほどまでに、狙撃手も俊春もすっげーことをやっているというわけである。 「さぁ、ゆくぞっ」 さらなる俊春の咆哮。刹那、こちらを向いていたかれの姿がかき消えた。 文字どおり、忽然と消えてしまったのである そして、またしてもおれたちは奇蹟を目の当たりにした。 かれが姿をあらわしたのは、馬上である。といえば、なんでもないように思える。が、その馬じたいが敵軍の馬であるなら、なんでもなくなってしまう。 伊地知か板垣か、もともとどちらの馬かはわからない。兎に角、かれはいまどちらかの馬上に立っているのである。 しかも、両掌にを握って……。 厳密には、両方の掌での項部分を握っているようにみえる。猫の頸をもっているような感じにである。はやい話が、頸ねっこをつかんでいるってわけである。 かれは馬上に立ったまま、両腕をあげた。大の男二人を、こちらにかかげてみせている。 「どこがよいか?望みをきいてやろう。苦しまずに逝くのなら、やはり眉間であろうな」