久坂は納得がいったと言う顔で頷いた。
「あぁ,お前が会合をすっぽかした時に連れてた。ならば桂さんの女と言うのは嘘ではないのだな。
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それには吉田の眉がつり上がる。
「桂さんの女じゃなくて玩具。三津が珍しい奴だから手元に置きたいだけなんだ。」
珍しくむきになる吉田に,久坂と入江は顔を見合わせた。
「大体あの人には幾松さんがいるだろ。思い出してみろよ,元々別の客の芸妓だった彼女を奪い取るのにどれだけ金を注ぎ込んだ?」
段々と怒りが込み上げて来て捲し立てる吉田を二人は黙って眺める。
「それでも自分のモノにならないから俊輔に力ずくで奪い取らせて。」
吉田はその当時の事をよく覚えてる。
何せ松下村塾の学友,伊藤俊輔を使って幾松を脅し取ったのを。
「だが…今回はそれをしてないのだろ?
金を積んで連れ帰る事も,親を脅して連れ去る事も。」
入江の指摘に吉田は押し黙った。それが何を意味するか,瞬時に分かった。
「だから…俺は何と言われようがアイツの様子を見に行くからな。」
桂には渡すまいと言う吉田の決意。久坂は呆れたと溜め息を一つ。
「まぁ落ち着け稔麿。お前の気持ちはよく分かった。俺らだって鬼じゃないさ,それに俺が医学の道の者だと言うのを忘れたか?」
久坂は得意気に笑みを浮かべた。
「あー…そう言う事…。確かに今は玄瑞を頼るのが賢明だ。」
「大人しく待ってろ。しかと様子を見てきてやるよ。」
そう言って久坂は一人,部屋を出た。部屋に残された入江は物珍しそうに吉田の顔をじーっと見た。
「何?」
「そんなにいい女か?あの娘。」
吉田は愚問だと鼻で笑った。だけどここで三津の良さを語った所で伝わるはずもない。
「会って話せば惹き込まれる。」
「成る程,では玄瑞は実感出来る訳か。魅了されて帰って来たりしてな。」
入江は片方の口角を持ち上げた。
「あのねぇ九一,笑えないからその冗談。」
「だが,桂さんも夢中になる女だ。」
どうなるか分からんぞ?とニヤニヤしながら吉田を見下ろした。
「あの人はただ若い娘がいいだけじゃない?幾松さんと三津は大して歳は変わらないはずだよ。
まぁ三津の方が幼く見えるけど。」
「良く考えれば土方の女にしても幼すぎたように思うな。あの男もそう言う趣向か?」
『そこなんだよな……問題は……。』
吉田は深い溜め息をついた。両手で顔を覆った後,その手は両頬を滑り降りた。
「三津は桂さんの恩人で,壬生狼は三津の恩人。三津は自分を助けてくれた壬生狼を探してた,お礼がしたいってね。」
「それが土方だと?」
「多分ね,じゃなきゃアイツが三津を連れてる訳ない。」
悔しいけどその時の三津は,桂しか目に映ってなかったと思う。
それなのに新選組に身を寄せていたのは,その恩人を見つけたから。
『側に置いた事で変に気に入ってなきゃいいけど……。』
「稔麿,入るぞ。」
「噂をすれば。」
「……何の噂だ?」
ふらりと顔を出した桂は入江の一言に眉根を寄せた。どうせいい噂じゃないと分かっている。
「余計な事言うなよ…それより何のご用で?」
「玄瑞を見なかったか?」
その問いに吉田と入江は顔を見合わせてふっと笑った。
「玄瑞なら出掛けましたよ。何処へ行ったかは知りませんが。」
「何か勘違いしてないか?私は玄瑞に忠告に来ただけだ。店の周りを新選組がうろついてるから気を付けるようにと。」
桂には全てお見通しだった。久坂と入江が吉田の為に何か行動するだろうと分かっていた。
「何だバレてるじゃないか。」
吉田は面白くないとふてぶてしい態度を取った。
「ごめんください。お三津さんの診察に参りました。」
慌ただしい店の暖簾をくぐって久坂は柔和な笑みを浮かべた。
功助とトキは仕事の手を止めてぽかんとした。