「何があったんですか?」
伊藤は恐る恐る三津の頭に手を伸ばして,恐る恐る撫でてみた。
いつも吉田達もこうやってる。だから何となく落ち着かせてやれるのではと思った。
「もっとわがままや本音を言えって言われて……でも聞き入れてもらえるもんやないって分かってたから言いたくなかったけど……言ったんです。
そしたら凄い嫌な気持ちになって……それ引きずってたから小五郎さん不機嫌にさせちゃって……。」 【植髮】胡亂植人工頭髮 或會造成嚴重副作用!
私が悪いのとまた泣き出した。
「多分三津さんは悪くないです……。桂さんの配慮が足りないだけです……。」
そう言って頭を撫でているとか細い声でもう大丈夫と呟いた。
「本当にごめんなさい……。藩邸でも不機嫌なんですよね?ごめんなさいこれから気を付けます。」
頭を下げて謝られ,伊藤の手は宙に浮いたまま。
『こんなに泣いて……いや泣かされたのに周りへの配慮ばっか……。
三津さんはこんなにも気を遣ってるのに桂さんは何をしてんだ……。』
「お忙しいでしょ?どうぞ戻ってください。」
こちらがどんなに気を遣っても三津はそれを突っぱねる。気遣われるのを拒む。
「分かりました……。では。」
何もしてやれなかったもどかしさを胸に伊藤は藩邸へ戻って行った。
『お昼……顔合わせ辛いな……。』
静かになった玄関で溜息をついたら,
「三津さん。」
外から声を掛けられた。
「あ……。」
声の主に吸い寄せられるように戸を開いた。
「あーあ。可愛い顔台無し。いっぱい泣きましたね?」
くすりと笑って頬に手を伸ばし,涙の筋を親指の腹で優しく拭う。
「入江さん……。」
「すみません,立ち聞きしちゃいました。」
中に踏み込んで後ろ手で戸を閉めた。
「うわぁ……恥ずかしい話聞かせちゃいましたね。」
笑顔で誤魔化そうとしたが入江がそれを許さない。
「都合のいい男が都合良く現れたんですから素直に甘えときなさい。」
それを聞いてやっと三津が素直に笑った。
「都合良過ぎますよ。藩邸から伊藤さんつけて来たんです?」
「三津さんにしては鋭い!桂さんの様子がおかしかったので心配になって。
そしたら思った以上に三津さんが泣いてたみたいでなので放っておけないんです。」
三津の体をふんわり包み込んだ。「どんな本音を吐いたんです?」
「お酒控えて欲しいのと紅付けて帰って来るのが不満ですって。
そしたら紅付けて帰らないように努力するって言ってくれはったけど……。」
入江はなるほどねと笑った。
「三津さんからすればそんな事する女に会って欲しくないですよね。」
「そうです……。
でも会合行くし付き合いもあるし……。私は割り切って我慢するしかないから。」
吐き出しながらまた辛くなってきた。三津は入江の着物をぎゅっと掴んで胸に額を押し当てた。
「三津さん真面目だから疲れるでしょう。
この際他の男にも身を委ねてみたらいかがです?」
「へ?」
またしても突飛な発言に間抜けな顔で入江を見上げた。
「少しくらい悪い事したらいいんです。
ちょっとだけ他の男も味わってみたらいいんですよ。」
悪戯っ子のような目元に妖しく口端を持ち上げて三津の顎に右手を添える。
そのまま首を傾けて唇を重ねた。
「んーっ!」
入江の胸を叩いて押して抵抗するが腰に巻きついた左腕は強く体を引き寄せてびくともしない。
それだけ強い力で抱き寄せられてるのに与えられる口付けはとても優しい。
「んっ……。」
何度も施される啄むような口付けに三津の口から思わず声が漏れる。
「随分……艶っぽい声出すんですね。」
唇を離してまた三津を抱きすくめ,耳元で囁いた。
「ちょっ!何の真似ですかぁ!?」
驚きのあまり声が裏返った。その声に入江が盛大に笑い出した。
「くっ……!艶っぽい声の後にその声ずるい!くっ!!くははっ!!かっ……可愛い……。」
入江の腕がするりと解けた。三津の両肩に手を置いて膝から崩れ落ちながらも笑う。
「そ……そんなに笑う?」
「す……すみません……。だって……雰囲気ぶち壊し……。
でも……いいや。都合のいい男になれたから。」
「意味が分かりません……。」
入江は三津の肩に置いた手に力を入れてもう一度しっかりと立ち上がった。
「この事は二人だけの秘密ですよ?」
「当たり前やないですか!言える訳ないでしょ!」
真っ赤な顔で怒る三津を入江はにこにこ見つめていた。
「ホンマに何考えてるんですか……。」
「だから三津さんの都合のいい……。」
「もういいですって。」