悪い記憶に囚われずぐっすり眠れた。それは三津にとっていい兆候。だけど現では相変わらずうわの空。
体は自然と人気のない場所を探して身を隠す。
別に本当に隠れている訳じゃない。ただ一人になるのを好んだ。
そんな三津を目敏く探し出したのは入江。
「三津さん。」
無邪気な子供のように明るい笑顔でその視界を占領した。
「入江さん,びっくりさせないで下さいよぉ。」 https://plaza.rakuten.co.jp/carinacyril786/diary/202402270000/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/e7961d7159c030af046b4aaece8034a6 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/02/27/224721
へらっと笑うその顔は全くもって驚いてなんかいない。
「何かあるなら話してくださいよ。都合のいい男であり相談相手なんですから。」
「出た!都合のいい男!それっていつまでやるんです?」
三津はくすくす笑って目を伏せた。
「三津さんが側にいる限り。永久に。」
すると伏せていた目が入江を映した。
「永久なんて,ありますかね。」
ふっと笑った顔に入江はゾクッとした。今まで三津がこんなにも冷たい目で笑ったことがあるだろうか。
無理して笑うあの笑顔とも違う。そこには何の感情もない。
入江から愕然とした顔で見られて,三津はそこで自分の失言に気付いた。ハッとした三津は激しく動揺して後退る。
「あっ,ごめんなさいっ!あの……忘れて下さいっ!」
三津は走って逃げ出した。入江は追いかける事も出来ずにただその場に立ち尽くした。
入江は知らない。三津の深い傷に踏み込んではいない。
「三津さんがおかしい。」
入江の言葉にアヤメは激しく頷いて,サヤは思慮深げな顔で片頬に手を当てる。
久坂は袖に手を突っ込んで何か分かってるような表情で遠くを見つめた。
「そうだな。それで……何で俺の部屋に集うんだ?」
吉田は胡座に頬杖をつき,目の前の面々の顔をゆっくり見渡す。
「稔麿は三津さんをよく分かってるから何か知ってると思って。」
「まぁね。三津は今新ちゃんに想いを馳せてるから。あ,新ちゃんは前の恋仲ね。」
新ちゃんを知らないであろうサヤとアヤメに視線を投げた。二人はほうほうといった顔で吉田の言葉に頷いた。
吉田は話を続ける。
「三津が新ちゃんと斬られたのは桜を見た帰り道だ。もうすぐ一年……。嫌でも頭から離れないだろう。」
サヤとアヤメはごくりと息を飲み,入江はなるほどなと息を吐く。
そりゃ憂いてる所に明るい空気は持ち込まれたくないはずだ。うずうずしていたアヤメが挙手した。
「私桂様に時期が過ぎれば治るからと言われたんですが……。でも時期が過ぎるのを待つだけでいいんでしょうか。
きっと三津さんは桜が咲く度に思い出されますよね?悲しい記憶だけ。」
誰もが静かに耳を傾けた。アヤメが心から三津を心配しているのが分かった。
「それだけじゃ余りにも寂しすぎるので何か楽しい思い出も作れませんかね?
その新ちゃんさんを忘れる事は出来ないし思い出すのは当然やと思います。それやったら一緒に楽しい記憶もあった方がいいんやないかって……。」
「なるほど。三津さんに楽しい記憶を植え付けるんですね。それはいい事だと思います。
ですが今でも一人を好む状態なので桜が咲く頃にどうなっているかは皆目見当もつかない。」
久坂はうーんと唸り声を上げた。そんな三津にどうすれば楽しい思いをさせてやれるのか。
「特別な事をすれば三津は気を遣われたと余計に落ち込む。面倒臭い奴だからね。だからあえて自然に楽しい事に巻き込まなきゃいけない。」
吉田の言葉には説得力がある。ならばどうやって巻き込むか。
「これは各々考えてまた集いましょうか。」
久坂はにっこり笑って解散と手を叩いた。
『おや。気付かれてしまったか。』
外で聞き耳を立てていた桂はそそくさとその場から立ち去った。
みんなに思われてる三津は幸せ者だと頬を緩めた。
『だが……稔麿の三津を一番知ってるのは俺だと言わんばかりの口ぶりが腹立たしいな。』