「へぇ……三津さんお花見するんだ。」
吉田と久坂から話を聞いた入江の反応は薄いものだった。
「サヤさんが上手いこと話をまとめてくれたみたい。」
「流石サヤさんだね。分かった後は三津さんが楽しんでくれるようにするだけだな。」
吉田の言葉に薄っすらと笑みを浮かべるとそのまま二人から離れて屋敷内を歩き回った。さて目的の相手は何処にいるやら。https://plaza.rakuten.co.jp/johnsmith786/diary/202402290000/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/14d79a0d6fec0975be62e42d9be94ef9 https://ameblo.jp/johnsmith786/entry-12842566079.html
『まぁサヤさんなら上手く言いくるめるのは納得できるけど……。』
何か引っかかるんだよなぁと首を傾げる。
目当ての人物は庭の掃き掃除をしていた。幸い一人だ。
「三ー津さん。」
茶目っ気たっぷりの子供のような声で呼びかけてこちらに振り向いたと同時に腕を引っ張り近くの蔵の陰に連れ込んだ。
「な……何の悪戯でしょう?」
壁に追い詰められた三津は箒を握りしめて上目で睨んで威嚇した。
「お花見の話聞きました。もしかして何か企んでます?サヤさんと。」
にっこりと笑われて三津の目元は引き攣った。サヤの笑みも悪女さながらだったがこちらの笑みも腹黒い。
「何も企んでませんよ!みんなでお花見したら楽しいかなぁって思っただけですっ!」
「本当に?」
「本当に!」
強気に出てみたが入江も腹黒い笑みを崩さない。何なら嘘はお見通しだと言わんばかりにじりじり距離を詰めてくる。
「……まぁいいや。三津さんがお花見を楽しみにしてくれるなら私はそれで満足です。」
納得はしていないがそう言う事にしといてやる。多分そう言いたいんだろうけど,三津からすれば見逃してもらえるならそれでも良かった。
詰め寄られた距離も程よく離れてほっと胸を撫で下ろした。
「駄目だよ油断しちゃ。」
「は?」
間抜けな声を出した時には程よかった距離はなくなって額同士がくっついて腹黒い笑みが視界を占領していた。
「良からぬこと考えてたら私とてそれ相応の対応をさせてもらいますからね?」
三津の鼻をぎゅっと摘んでから入江はひらひらと手を振って屋敷に戻って行った。
『別に良からぬことは考えてないけど……。』
アヤメの想いが成就すればいい。そう思ってるだけであって決して良からぬことではない。
ただ余計な事はするなとの牽制だったのも理解した。
「参ったなぁ……。」
これではアヤメに協力する云々の話ではないじゃないか。あわよくばアヤメと懇意になってくれたら気が楽なのに。その考え方がいけなかったのか。世の中上手くいかないものだ。
『せめてアヤメさんがお花見して良かったと思ってくれるようにしよ。』
なので三津の使命は,入江の機嫌を損ねずさり気なくアヤメの側に誘導する。に決定した。
『後は……新ちゃんのお墓参りいつ連れてってもらおうかな。』
新平とふくは先に亡くなった両親の側で眠っている。でも三津は新平と最期に見た桜の木を新平の墓だと思っている。思い入れ深いあの場所が三津にとっては墓なのだ。
出来たら満開の時に連れて行ってもらいたい。
『それもお願いしとかんと。』
三津は箒を納屋にしまって屋敷内に戻った。
確か今日は桂は屋敷内に居る。三津は仕事の邪魔をしないように静かに部屋へ向かった。すると先客がいた。
「本当にサヤさんはよく分かってるね。」
桂の声がした。どうやら中に居るのはサヤらしい。
「桂様にそう言っていただけるなんて幸いです。」
「本当に君に敵う人はこの屋敷にはいないね。」
『べた褒め……。』
それに返事をするサヤの声色もまんざらでもないように聞こえた。
『二人は別にやましい関係やないって分かってるけど……。』
モヤモヤする。お願いする気が失せた。三津は気付かれないように踵を返した。
今日はもう誰にも会いたくない気分だ。仮自室にでもこもろう。
あの会話から推測するにきっとサヤが桂にとっていい仕事をしたから褒め称えてたんだろう。
それは仕方ない。実際にサヤは仕事も気遣いも出来過ぎるくらいだ。
そこに嫉妬するのはお門違い。それならば褒められるように何倍も努力すればいいだけの話。
『別に褒められたいわけちゃうし……。』
でも桂がサヤを褒めた事に妬いている。
『新ちゃんの時はこんな嫉妬したりせんかった……。』
その理由はすぐに分かった。新平と三津の間に余計な他の女の存在などなかった。
だから何の不安も心配も抱かなかった。安心感しかなかった。それが心地よかった。
その安心感を思い出した瞬間に涙が込み上げてきた。
「三津?どうした?」
背後から吉田に声をかけられ少しビクッとした。
「何でもない!」
急いで仮自室に飛び込んだが吉田が見逃してくれるはずもない。