三津は入江が去ったあとの障子を呆然と見つめた。
『ホンマに何を考えてはるんやら……。』
いつも真意が見えないし何も掴めない。https://plaza.rakuten.co.jp/mathewanderson/diary/202402290000/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/2ef11e16be4c3c073d766dc64f43a8aa https://ameblo.jp/mathewanderson/entry-12842594004.html
ただ,相手の気持ちを知りながらそれを知らないふりをして無い物として振る舞うのが簡単ではないのは理解した。
入江なりに色々考えた上でそうしてるんだと思った。それなのにその想いと向き合わそうだなんていい迷惑なのも分かった。
『それはそうと何で私なんか……。』
三津は大きな溜め息を一つ。世の中物好きの多いこと。それとも今までの視野が狭過ぎただけなのか。
『アヤメさんの想いを成就させてあげたいのにっ。』
それには三津自身が入江の好意の対象から外れなければならない。どうしたら嫌いになってくれるんだと頭を抱えた。
それから夜までのらりくらりと人目をかわして夕餉も台所でひっそり食べて後片付けを終えてからようやく吉田のもとへ戻った。
「お帰り。結局ずっと隠れてたの?」
三津を迎え入れた吉田はすでに自分で延べた布団の上で寝間着姿で寝そべっていた。
「まぁ……ちょっと……。
それで私に頼みたい事って何でしょう?」
障子の前で突っ立ったまんま問いかけると吉田はおいでおいでと手招きをした。それにつられて側に寄って腰をおろした。吉田は少しだけ上体を起こして耳打ちするように小声で用件を伝えた。
「按摩してほしいんだよね。肩も凝ってるし出来たら腰も。」
「あぁそれぐらいなら。」
お安い御用だと三津はにっと笑った。でも何でこんな近距離で小声で会話してるんだろうと不思議に思いながら腰から解しにかかろうとした。
「待って待ってちゃんと背中に跨って全体重かけてやってよ。」
「いやいやこのままでも!」
充分出来ますよ!って言う前に手首を掴まれ言う通りにしろと無言の圧力を鋭い目から放ってくる。
「……失礼します。」
吉田の背中に跨るなど恐れ多いし傍から見れば破廉恥極まりない恰好である。自慢のお御足が着物の裾からちらちら見えてしまう。
この現場を誰かに見られては恥ずかしくてもう藩邸には出入り出来ない。これは手っ取り早く吉田を満足させて終わらせようとぐっと両手を握って拳を作った。
「本当に疲れが溜まってるんだ念入りに頼むよ。念入りに。」
大事な部分を二回繰り返された。三津の目論見はあっさり打ち砕かれた。観念して分かりましたと呟いて肩に手をかけた。
「うわぁめっちゃ硬い!」
「だろ?三津の手は小さいからねしっかり掴んで。そうそう,あー気持ちいい。」
吉田は目を閉じてうっとり感嘆の声を洩らした。小さな声で,あーいいわぁ最高……なんて言われたら施す三津もそうでしょうそうでしょう按摩は実は得意ですからねと調子に乗る。
「ここどうですか?」
「気持ちいい,そこもっと。そう,んー気持ちいぃ……。」
ぐっぐっと力を込めて揉めばいい反応が返ってくる。
「三津上手いね意識飛びそう。そのままもう少し下の方を。」
『小五郎さんはこの前これで寝てもたもんね。』
吉田もこのまま寝てくれたらいい。これは期待に応えて眠りに落ちてもらおう。
「ふふ,いいんですよ意識飛ばしても。よくこんなんになるまで我慢出来ましたね。」
桂もだいぶ凝っていたが吉田もなかなかだ。これはやり甲斐があるなと指圧していると,
「んっ!三津そこ駄目くすぐったい。気持ちい……んだ……け……どっ,そこは!駄目!」
吉田のくぐもった声とまさかのそこ駄目と言う弱点の吐露。これにはにやりと笑うしかない。
「ん?どこ?ここですか?ここ駄目?」
三津はわざとらしくその脇腹に近い部分を攻め立てる。
「ちょ!わざとだろ!あっ,ちょっ止めて!あっ!」
普段,いやずっと前からからかわれていた積年の恨みをやっとここで晴らせる。三津のにやにやが止まらない。
自分の下で足をばたつかせる吉田に止めのくすぐり攻撃を仕掛けようとした。
「何してるっ!」
桂の声と同時にすぱんっ!と障子が開かれた。三津は桂の登場にサーっと血の気が引き,吉田はいい所に来てくれたと小さく息を吐いた。それからとんでもない形相の桂を見上げてにやりと笑った。
「声からして三津さんが攻めてんだなぁって思ったけど……ちょっと思ってたのと違ったな。残念。」
桂の後ろから入江がひょっこり顔を出した。
「なるほどね按摩か。それなら俺がしてやったのに。それにしても稔麿の声が紛らわしいからいつ踏み込もうか戸惑ったわ。」
さらに久坂まで現れて三津は恥ずかしさで死にそうだった。改めて見なくともみっともない姿だ。
やっぱり背中に乗るのは意地でも断ればよかったと後悔するもあとの祭りだ。