「もぉ無理……禁欲半年の実績が無駄になるぅ……。」
広間に飛び込んだ入江は正座した状態で畳に突っ伏して嘆き,心中察すると高杉と白石がその背中を撫でた。
「酔うとあぁなるんか?すまんな,薄めたとはいえ俺も呑ませすぎたわ。」
「いや武人さんのせいやないし,酔うまで呑ませた事ないけぇ呑みすぎたらどうなるか分からんかったほっちゃ……。今日は無理……ここで寝る……。」 https://lefuz.pixnet.net/blog/post/145039252 http://janessa.e-monsite.com/blog/--105.html https://www.evernote.com/shard/s729/sh/c0c92230-00c2-c65d-95f6-73bc05b4bea9/bwdcdnkhI6tsU-pq9WnNGEdHk_MIcVaklp-I4-sG6M7lJmm1G_Ou9ssb5w
「九一のこんな姿拝めるとは思わんかったな。女に振り回されとるの初めて見るわ。」
高杉は愉快愉快とまだ酒を煽る。高杉に馬鹿にされるのは腹立つが,入江には何も言い返す気力は無かった。
「それにしても三津さん相変わらず予想外の動きするわ。ここまでどんな暮らししとったそ?」
「あぁそれは聞きたいねぇ。」
高杉と白石は酒の肴に詳しく聞かせろと腰を据えた。入江も居直してつい一昨日までの生活を振り返った。
「この十月ほど……寝て起きて飯食って外出て戻って飯食って湯浴びて寝て起きての繰り返し。」
「だからその中身を話せよ。」
「晋作が期待するような事はないって。三津さんには苦痛な毎日やったと思う。桂さんからの便りもないし追手から身を隠して閉じこもる日々やった。」
それでも明るく振る舞う三津が健気で儚かった。「面白い話って言ったら私の扱いに慣れてきた三津さんの口がどんどん悪くなったぐらいやな。」
初日にそれを目の当たりにした高杉と白石と伊藤は小さく“あー”と漏らした。
「私がここまでの間で出来たのはなるべく寂しさを紛らわせてあげるぐらいで,桂さんが抜け落ちた心の穴は埋められんかった。
それやのに毎日笑ってご飯作って,おはよう行ってらっしゃいお帰りおやすみを言ってくれて……私にはそれが凄く幸せで。
やけど三津さんにはそれ以上のモノを返してやれん自分が不甲斐ない。」
入江はこんな話はするつもりなかったのに何を言ってるんだろうなと自分に呆れた。酒のせいかそれでも口は喋り続けた。
「少しでも作り笑顔やなくて自然に笑わせてやりたくて,紅葉狩りに連れてったり,二人で出かけて,なるべく楽しい思い出を刻んでやろうとしたほ。
そしたらついこの前や。やっと桂さんから文が来た。こっちに戻るって。三津さんその文抱いて全身で泣いちょった。
そんなん見たら会わせてやるしかないやん。どれだけ頑張ったって全然桂さんの足元にも及んどらんそ。
隙だらけの癖に一番重要な所閉ざしちょる。敵わん。」
あぁ今日は酔ってるな。こんなに吐露するつもりはなかったのに。入江は笑うなら笑ってくれと酒を手にした。
「何それ重すぎない?おじさん二人の事勘違いしてたわ。三津さん寂しさからもう入江君に傾きかけてるって思ってたわ。」
白石は心臓が変な脈の打ち方してると胸を押さえた。
「全然。だから雰囲気だけで夫婦楽しんどる寂しい男です。」
「入江!俺は形だけでもお前らを夫婦にしちゃるけぇ!明日からも俺は入江の嫁ちゃんって呼ぶ!」
山縣が号泣しながら入江の両肩に手を置いて前後にがくがく揺すった。
「有朋酒溢れる止めろ。お前も酔ってんな?」
入江は相手にするのが面倒で持ってる酒を呑ませて潰しにかかった。
「俺はてっきり昨日の夜お前に向かって見せた天女の笑みで思いは通じ合っちょるもんやと思ったほ!なのに!なのに!」
「面倒臭えなぁ。」
入江は徳利から直接山縣の口に酒を流し込んだ。暑苦しいからさっさと寝て欲しい。
「今朝言っちょった凶悪な天女って三津さんの事か?」
赤禰は今朝の山縣の意味不明な言動を思い出してぽんと膝を叩いた。
「それな。武人さん聞いてや。この馬鹿四人が部屋まで押しかけてきたほっちゃ。」
入江は忌々しいと舌打ちしながら馬鹿四人を顎でさした。