『あぁそうか。死んだ恋仲の影響か。守れんかった後悔が三津さんを動かしとるんか。ついでにその恋仲に注ぐはずやった愛情が周りに与えられとんやろか。』
三津の行動は全て無意識だ。その中で注がれる愛情を無償の愛と言うのかもしれない。
『なるほど,その愛の深さに入江は溺れとるんか。』 顯赫植髮
ようやく意味が分かったとまた喉を鳴らして笑った。
そしてその愛を桂と吉田は独占しようとして,入江は他にも共有しようとしてるのかと考えた。
『坂本さんが三津さんを離さん方がいいって言ったのもあながち間違いやなかったな。
そうか……人の気持ちを動かしたかったらまずは自分か……。』
目の前の三津は何か変な事言いましたかと不安げに見つめてくる。赤禰は穏やかに笑って首を横に振った。
「三津さんありがとう。楽になった。」
赤禰はこれでもかと三津の頭を撫で回した。
「武人さんは私を犬か何かと思ってますか?」
「犬……にしては従順さが足りんなぁ。俺の手もそのうち噛みそうや。」
赤禰がからから笑うと三津は顔を真っ赤にしてそんな事しませんと声を荒げた。
「冗談や。そうや今度ちょっとだけついて来て欲しい所があるけぇ時間作ってもらってええか?」
赤禰の頼みなら断れない。三津は勿論ですと笑顔で頷いた。
「そしたら戻るか。転けんようにな。」
赤禰が手を差し伸べて小さな手がそこに重なった。
『ちっさいなぁ。』
この小さな体のどこに大きな原動力を貯め込んでいるのか不思議で仕方ない。
『後で入江にも礼言わんとな。』
赤禰は三津の手を引いて海辺を後にした。
「あっおかえりー。私の嫁ちゃん返して?」
阿弥陀寺の前では入江が待ち構えていた。握られた手を見て怒気を全面に押し出した笑顔で両手を赤禰の前に突き出した。「見かけによらず嫉妬深い奴やなぁ……。三津さんありがとな。後は旦那の相手しちゃり。」
繋いだ手を離してぽんぽんと頭の上で弾ませれば三津は嬉しそうに目を細めた。それにも嫉妬の眼差しを向ける入江を赤禰はじっとり睨んだ。
「共有したいなら嫉妬すんな。」
入江はそれは無理やなと肩を竦めて子供のように無邪気に笑った。
「それで……溺れた?」
「まだ。でも片足突っ込んだ。」
二人は何の話をしてるのか分からずに三津は二人の顔を交互に見た。
「突っ込んだら時間の問題っちゃ。せいぜい覚悟しとき。三津行こ。膝枕して。」
入江はその無邪気な笑顔を三津に向けたが,
「多分そこの石段の方が寝心地いいですよ。冷たいし。」
三津は何食わぬ顔でふいっと石段に目を向けた。
「違う。私が求めたい冷たさはそうやない。あと柔らかさは欲しい。」
無邪気だった顔は今度は真剣な眼差しで膝枕を所望した。
『入江の性癖がまた出とる……相変わらずの変態やな。』
「九一さんにするぐらいなら今日は武人さんにしてあげます。」
入江に向かって口を尖らす三津に赤禰は瞬時に視線を向けた。
「え,いいん?そしたらいつも貸してるから今日は借りよかな。」
赤禰が平然と俺の部屋においでと誘ってくるから三津は顎が外れるかと思った。
あまりにも分かりやすく動揺するから赤禰はわざと追い打ちをかけた。
「お返し何かしてくれるんやろ?」
そう言えば三津は断れない。日頃かけてる迷惑の数々を思い返せば断ることなど選択肢にないのだ。
「私の膝で良ければ……。」
恐れ多いが満足いくまで努めさせていただきますと仰々しく頭を下げた。
「えっ狡い。せめて側で見届けたい。」
入江はこれ以上二人きりにさせてたまるかと目で赤禰に訴えた。
「ん,そしたらちょっとだけ昼寝する。」