三津は膝を貸したままおにぎりを頬張った。側では高杉達が騒がしく呑んでいる。
「本当に寝とるそ?」
この騒々しさでも起きないって怪しい。狸寝入りじゃないかと文が寝顔をのぞき込んだ。
「多分熟睡です。」 【生髮】維新烏絲素有無效?成分、副作用一覽!
三津が人差し指で頬を突いた。ちょっと嫌そうに眉間にシワを寄せたがすぐに綺麗な寝顔に戻った。
「誰か桶屋さんに桂様今日はそっちに帰れんって知らせに行った方がええんやない?起きんわ。」
文も頬を突きながら誰か行ってと騒がしい奴らの顔を見渡した。すると全員の視線が伊藤に集まった。
「分かったっちゃ。行けばええんやろ。」
そう言う役目はいっつも俺やなと文句をたれながらも伊藤は事情を伝えに桶屋に向かった。
「姉上足は平気ですか?フサの膝に移すのは無理ですかね。」
板の上での正座は痛いでしょうと心配してくれるが流石に頭を動かせば起きてしまうだろう。三津はもう少しこのままでと微笑んだ。
「真剣に嫁ちゃんおらんと生きていけんのやない?この人。」
「三津が骨抜いとるけぇ一人は無理よ。この人。」
「三津さんにはこんなに甘えるんやねぇ。この人。」
『山縣さん達小馬鹿にしてはるな。』
入江と文の言い方にも悪意をびしびし感じた。ある意味慕われてるんだろうけど長州を背負ってると言うのに敬意の欠片もない。
三人は本当に寝てるのか?悪口言えば起きるんやない?と口々に寝顔をのぞき込む。
「木戸さん名前似合わんぞ。」
高杉がほろ酔いでけらけら笑いながら桂の頬をぺちぺち叩いた。
「んー……。隠居したい……。」
「寝言は寝て言え。」
「晋作,これ寝言やぞ。」
高杉と入江はこの寝言は相当病んでるなと喉を鳴らして笑った。
「でもそろそろ起こさん?三津さん足痺れたやろ。」
高杉は三津を気遣って桂の体を揺すった。
「おい。木戸さん起きいや。三津さんの足が限界ぞ。」
「木戸さん違和感やわ。でも呼ばんと慣れんけぇ呼ぶしかないわな。木戸さん,私の嫁ちゃん返して。」
入江の言葉にようやく桂の目が開いた。
「誰の嫁ちゃんだと?……ん?私寝てた?」
桂は慌てて体を起こして,寝起きの気の抜けた顔でにんまり笑って自分を見てくる面々を見渡した。
「桶屋さんには今伊藤さんが今日はこちらに泊まると伝えに行ってますんでゆっくりしてください。食べます?」
三津は文が握ってくれたおにぎりを一つ差し出した。
「どのぐらい寝てた?いつ寝たか記憶がない……。」
桂は寝ぼけ眼でおにぎりを手に取った。「私の膝に頭を乗せてすぐに寝ちゃいましたよ。」
三津は痺れた足を崩してお疲れ様ですと笑った。
「木戸さんも呑むか?」
「おにぎりに酒は合わん。」
桂はおにぎりにかぶりついて高杉の誘いを断った。それに木戸と呼ばれたのが何となく嫌だった。
「木戸様は食べて湯浴みして早めにお休みになられた方がいいですね。」
文にも真面目な顔で木戸と呼ばれ何だか体がむず痒くなって身を震わせた。
さっきまで“この人”呼ばわりしてたみんなが急に“木戸さん”と言い出して完全におちょくってるなと三津は思った。
「木戸様,それだけでは足りないでしょうからもう少し作って参りますね。」
フサがではと会釈をして台所へ向かった。
「……みんな無理して呼ぶことはないぞ。」
むしろその名で呼ばれたくない。おちょくられてるのも分かった。
「でも呼ばんと慣れんので。」
木戸様も慣れてください本人でしょと文に言われて黙り込んだ。そうだ木戸貫治とは自分の事だ。
そして昨日三津に他人行儀な“あなた”と呼ばれたのを思い出して少しへこんだ。
「三津は無理に呼ばなくていいからね?」
昨日言った通り慣れるまで小五郎さんと呼んでほしい。
「いえ,私も子供やないんやし受け入れんと駄目ですよね。慣れるように努力しますから……木……木戸さん。
あっあのっ私フサちゃんの手伝いして来ます!待っててくださいね!」