三津の申し出にしずも次郎もぽかんとした。
「お店に迷惑かかるから辞めてくれって言われるなら仕方ないですけど,これぐらい平気ですよ?私結構死にかけてるんでこの程度の怪我なら何ともないと言うか。
寧ろこれで辞めたら向こうの思う壺って感じが嫌なんですよね。これはもう犯人突き止めてこんなもん人に投げたらアカンって叱らんと。」
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何とも三津らしい言葉に文は吹き出した。
「そう言う事やからしずさん,迷惑やなかったら三津さん置いてあげてくれん?」
文もお願いと笑って小首を傾げて見せた。
「お前大丈夫なんか?」
一之助も信じられんと言う顔で三津を見るが本人は全然平気とにっと歯を見せる。
「京では拷問受けた事あるんでホンマにこんなん掠り傷ですよ!あーでも結構腫れてるんですね。」
三津は恐る恐る自分のおでこを撫でてみた。ぷっくり腫れてまぁまぁ痛い。
「何しちょるん!縫うほどやなくても切れとるんぞ!」
一之助はカッと目を開いて三津の手首を掴んだ。せっかく医者に診てもらって処置したのに傷開かせる気かと一喝した。「こんな娘に拷問やなんて京っちゅう所は恐ろしい場所や……。」
それをけろっと口にする三津も三津だと次郎は開いた口が塞がらない。
「あっ文さんは大丈夫ですか?多分今回は私が余所者やから追い出したくてここまでの手段に出たんやと思うんです。家の方に何かあったら……。」
「あーそれならうちも平気っちゃ。兄があれやけ結構嫌がらせとかきつい仕打ち受けとるけぇ慣れちょる。それにこんな事する奴らには仕返しせんとねぇ。」
文がにやりとあのどす黒い笑みを浮かべた。これはもう完全報復に出る気だ。
「お三津ちゃん本当にいいそ?」
心配そうなしずに向かって三津は大丈夫と笑顔で言った。
「次郎さんしずさん,今度はちゃんと俺が守るけぇ置いてあげてもええやろか。」
一之助の申し出にしずと次郎は顔を見合わせて微笑んだ。
「今度はうちらももっと注意深く見ちょくけぇおってもらえる?」
三津は勿論と頷いた。職を失わずに済んでほっと胸を撫で下ろした。これだけ余所者扱いされるならここを追い出された後の職が見つかるかどうか。そっちの方が心配だ。
この日は安静にとの事で三津はこのまましず達の家に泊まることになった。一之助は文を送る為に三津の側を離れた。
「一之助さん今回の犯人心当たりある?」
「分からん……。三津さん珍しく思うお客多いけど来る人みんな好意的で悪く思っとる人は今のとこおらん……。」
それを聞いて文はうーんと考えた。
「一之助さんに気がある女子達はよく思っちょらんやろ?」
「やっぱりそうなるよなぁ……。また俺のせいや……今回は顔に怪我までさせてもてどうしよ……。」
一之助は盛大な溜息と共に俯いた。
「やけぇ責任持ってあそこで働かせちゃって。三津さん修羅場は結構潜って来とるけぇちょっとやそっとじゃ根は上げんよ。ただ色恋では今は傷心しとるから優しくしたって。」
「文ちゃんの頼みは断れん……。」
それを聞いて文はにんまり笑った。
店に戻った一之助は奥にある居間を覗いた。しずと談笑する元気そうな三津を見てほっと胸を撫で下ろし,文から預かった三津の着替えを渡す為に中に入った。
「ありがとね一之助。遅くなったけあんたも早よ帰り。」
「多少遅くなっても俺は男やけ大丈夫や。これ文ちゃんから着替え預かった。三津さん具合は?」
「傷は疼きますけど大丈夫です。ホンマにありがとうございました。また明日。」
「おう……。」
もう少しここに居たかったのにあっさりまた明日と言われて寂しさを感じながら店を出た。