その言葉に三津は目を丸くした。奇兵隊が失くなるなど現実味がなさ過ぎて,どう反応すればいいか分からなかった。
それに帰る場所とは私の事なの?と目を瞬かせた。
「私が帰る場所なん?それで安心なんか出来るん?」
その質問に入江はふふっと軽く笑った。
「安心するっちゃ。京で私が死に物狂いで三津の元に帰った時,あの時のお帰りなさいにどれほど救われたか。
帰って来られた。生きちょる。この人の為にまだ生きんにゃいけんって思えた。
きっと有朋もそれを感じるはず。」
三津は大袈裟なと笑いながら,入江が戦から帰還したあの日を思い出した。
「帰る場所かぁ。」 【植髮】胡亂植人工頭髮 或會造成嚴重副作用!
「あの時はあの時で幸せやったなぁ。今も最高に幸せやけど。三津の膝枕……最高やわ……。」
三津は改めて幸せを噛みしめる入江に苦笑した。
「稔麿がまた妬くんやろなぁ。私の夢にも出て来んかな。」
そう言って欠伸をしながら目を擦った。その仕草が幼く見えて三津は自然と笑みを溢した。
「三津,少しだけこれで仮眠取っていい?」
「いいですよ。」
正座が辛くなったら起こしてと言うと入江は少しして眠りについた。
「夢で吉田さんに会えるといいですね。」
果たして会えたらどんな会話をするのだろう。ちょっと立ち合ってみたいと笑みを深めたが,
“お前ら俺が居なくなってから随分いい仲になったようだね?ちょっと話し合おうか”
あの怒気を孕んだ圧のある笑みで責められるのを想像して身を震わせた。夢の中でも説教を受けたくない。
「九一さん,そのお役目譲るのでどうぞ叱られて下さい……。」
三津は頼んだと目を瞑って両手を合わせた。
「ねぇ,これは一体どういう状態?」
吉田からの説教回避の祈りを捧げている頭上から,不機嫌な声が降り注いだ。
「あ……。お帰りなさい。」
見上げれば困惑なのか怒りなのか,色んな感情を織り交ぜた顔の桂に見下されていた。
「……山縣君潰して二人で何してたの?」
桂は目元を引くつかせながらぎこちない笑みで問いかけた。
「なっ!誤解してます!山縣さんが勝手に潰れて相手に疲れた九一さんが仮眠取ってるだけです!」
その言い方は心外だと三津は頬を膨らませて抗議した。
桂はごめんよと謝りながら静かに三津の傍に寄った。「すまない,そんなに拗ねないで?二人で山縣君に付き合ってあげてたんだね?」
「分かってはるやないですか。」
尚もむっとした表情をする三津に,桂は苦笑しながら申し訳ないと謝った。
「だって愛しい妻が酔い潰れた男の側で,別の男に膝枕してるってなかなか無い光景だよ?」
そう言われて,確かにそうだよなと三津も苦笑した。でもやましい事は何もないと桂を安心させる為の言葉を並べた。
「今日は山縣さんの愚痴に付き合ってたんですよ。高杉さんが全然こっちに来んから寂しいみたいで。」
「なるほどね。私にも後で癒やしをくれる?」
今日も疲れたよと弱々しい笑みでふぅと息を吐いた。
「今日もお疲れ様でした。部屋に戻ったら。」
「ありがとう。それで……九一は本当に寝てるのかい?」
こんなに無防備な姿はほぼ見る事が無い。桂は正面からその寝顔を凝視した。
「寝てますけど仮眠程度やからすぐに起きはると思います。」
その時,桂が急にふふっと笑いだした。何か思い出したの?と三津が不思議そうな顔をして問いかけるも,桂は何も言わずにしばらく入江を見ていた。
「京に居た頃を少し思い出した。まだ稔麿も玄瑞も生きてた頃。」
その言葉に三津は穏やかな笑みを浮かべた。きっと自分の知らない思い出が蘇ったんだなと,楽しそうな桂の顔を眺めていた。
「悪ガキの思い出ですか?」