おうのの家を出て少し歩いてから桂はふっと笑った。
「どうしました?」
「いや,三津はやっぱり人の性質を熟知してるなぁと。」
三津は何の事?と首を傾げて桂を見上げた。
「晋作の性格をちゃんと分かってる。病人扱いをされたくない晋作には,遊び相手はいい言葉だった。」
「あぁ!その事ですか。みんなに隠すぐらいですから病を認めたくないのか,それともやっぱり病が怖いのか,それは高杉さんにしか分かりませんけど,いずれにせよ今まで通り接して欲しいんやないかと思ったんで。」
「そうだね。私も晋作の事はまぁまぁ理解してる方だと思っている。だからさっきも取り乱さず冷静に対応出来るかと思ったが……そうではなかった。」
「小五郎さん……。」
きっと誰がどう見ても桂は冷静だった。落ち着き払って駄々をこねる子供を諭す大人だった。
「いざ晋作を目の前にするとね,色んな思いが込み上げた。それを抑えるのに必死で大した言葉もかけてやれなかったし,大した説得も出来なかった。」
桂はぎこちない笑みを浮かべた。受け入れ難いねと寂しそうに笑った。三津はそっと桂に寄り添った。すると桂も三津の肩を抱き寄せた。
「身近な人間があぁなった時ほど考えさせられる。愛しい妻を残して逝きたくないよ。」
「小五郎さん……。」
「と言っても道連れにもしたくないがね。」
しんみりしてしまい,桂はその空気を払いたくて戯けたように笑ってみせた。
『小五郎さんも動揺してはる……。やっぱり心に負担かかるよね……。』
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少しでもその負担を軽くしたくて三津が口を開きかけた時,
「木戸さん!様子はどうでしたか?」
伊藤が迎えに来てしまった。その隣りには入江も居た。伊藤もまた表情を固くし,落ち着かない様子で駆け寄ってきた。
「病である事以外はいつも通りのふてぶてしさだったよ。床で暇してるから伊藤君も暇を作る,交代で遊び相手になりに行ったらいい。」
「遊び相手?」
伊藤は何を言ってるんだと言う顔で首を傾けた。入江は瞬時に理解して笑みを浮かべた。
「病人扱いしたら腹立てるけぇ見舞いやなくて遊びに来たって言わんにゃいけんそ。」
入江の言葉に伊藤もすぐに納得した。そこは納得したが高杉が病である事は納得いかないらしく,実際顔見んにゃいけん。とぼそりと呟いていた。
「三津,私はこのまま行ってくる。」
「はい!行ってらっしゃいませ!」
三津はやんわりと微笑んで見送りの言葉をかけた。その笑みを見て桂の表情も和らいだ。
「九一,三津をよろしく。」
「承知しました。よろしくやっときます。」
「違う。そう言う意味じゃない。」
入江がにんまりと笑うから桂は凄まじい形相で入江に詰め寄った。
「小五郎さん,遊ばれてます。真に受けないで。」
三津が間に入って落ち着いてくれと桂を宥めた。入江はへらへらと笑っている。
「ほら木戸さん行きますよ。」
このままじゃきっと三津から離れないと思った伊藤は強引に桂を引きずって行く手段に出た。
三津は何度もこちらを振り返りながら連れて行かれる桂に手を振って見送った。
「本当に三津に関してはいい反応するわ。」
京の藩邸でもこれが楽しくて揶揄っていたなと目を細めた。
「九一さんにとってはあの人は玩具ですか?」
「まさかぁ!」
わざとらしい言い方に三津は笑った。どう考えたって相手の反応を見越して揶揄って遊んでいる。
「でもお陰で少しは気が紛れたと思いますよ,小五郎さん。」
「やっぱあの人でも動揺しちょった?」
「冷静に見えましたけど,内心は違ったみたいです。」