元周は広間に踏み込んで高杉の正面に腰を下ろした。中に居た面々は自ずと距離を取り,二人の様子を固唾を呑んで見守った。
「なんや元気そうやないか。自暴自棄になって酷い暮らししとるかと思ったわ。」
にんまり笑って嫌味のように投げかける元周を,高杉はふんっと鼻で笑った。
「俺がそんな落ちぶれると思うやなんて元周様もまだまだですなぁ。」
高杉の挑発的な目と発言に元周は声を上げて笑った。
「それでこそお前やな。もう少し話したいが我も暇ではない。だがまた来るぞ。」
「いや遠慮します。」
来る暇があるなら仕事してくれとげんなりした顔をしたから,元周はそれを見てまた笑った。https://mathewanderson7.pixnet.net/blog/post/148106734 https://mathewanderson.e-monsite.com/blog/--2.html https://www.evernote.com/shard/s514/sh/c9fe2b27-a68a-e270-e831-773ab3572307/82dLy7vPulSCwlO505FNcFWe8MyJ9kU5WQ19eE5xmxboWFJFfgumdsLWiw
「遠慮するな。何かあればこっちに話を通せ。松子にでも伝言を託せば良い。しっかり養生しろ。」
それだけ告げて元周は立ち上がった。それと同時に高杉は深く頭を下げた。
「突然邪魔してすまんかったな。松子,次は城で会おうぞ。」
「承知致しました,参ります。」
やっぱり行かなきゃいけないのねと苦笑して頭を下げた。元周は三津の前で屈んで肩を二回叩いた。それからぐっと顔を近付けてから立ち上がった。
目を丸くして見上げてくる三津の顔に笑みを深めてから広間を後にした。
「うちの妻に馴れ馴れし過ぎやしませんかね?」
桂は溜息をついて広間を出た元周の後を追いかけた。お偉い方を見送らない訳にはいかない。
それに三津に必要以上触れないで欲しいと愚痴を溢した。
「相変わらず自由な藩主様やな。」
高杉も姿勢を崩して胡座に頬杖をついて溜息をついた。
「元周様は高杉さんの力になりたいんですよ。」
「三津さんそれは買い被り過ぎやな。」
「いいえ,元周様も素直じゃないから。」
疑いの眼差しを向けてくる高杉をくすくす笑って,三津は案外似た者同士かもなんて言った。
「さっき私の肩に手を置いて立ち上がる際に元周様は仰られました。高杉を頼む,心配でならんって。」
本当に三津に聞こえるだけの声だった。
『何かあれば話を通せか。』
高杉はさっきの言葉を思い出し,ふっと笑みを浮かべた。
「無理難題でも聞き入れてくれるんか?なぁ?」
「さぁ?でもその難題を元周様に伝言するの私でしょ?あんま厄介なん託されたら帰って来られへん気がするんでやめて下さい。」
「それよ。城には私もついては行くけど長居は御免やで。」
そう言いつつも,何かあれば元周が力を貸してくれると分かり入江は内心ほっとした。
高杉がそれにどれだけ縋るか,何を要望するかは別として。高杉はまたふんと鼻を鳴らして笑った。
「あの人の手を借りんでも俺は俺で楽しくやるけぇ。さぁて,おうの待たせとるけぇ帰るかな。」
高杉はゆらりと立ち上がり,また来るわと笑顔で隊士達に片手を上げた。
「高杉さん,途中まで一緒に。」
帰り道に何かあってはならんと三津は心配して後を追った。
「三津さんは心配性やな。別に大丈夫や,多分おうのが来ちょる。」
高杉は穏やかに目元を綻ばせた。その顔は幸せそうで,きっと心配して門の前で待っている愛しい人を思い浮かべたんだと三津は思った。
「そうですか,そしたら玄関まで。ホンマに何かあれば言伝頼んでくださいね?」
「何かあればな。それに三津さん抱きたいは元周様やなくて木戸さんに話通さんといけんしなぁ。」
「命知らずにも程がありますね。」
「そりゃ松陰先生の教え子やけん。じゃあな!」
高杉はにっと歯を見せてから帰って行った。笑みを見せ,冗談を言う高杉を呆れた顔で笑った。