「当然だろう。その男も生きながら地獄を見てるんだから。
思い出してみろ。サヤさんの仕事はいつも完璧だったろ……。」
「怖いよぉ……もう会うの怖いよぉ……でもすぐ遊びに来るって言ってたぁ……。」
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入江は知らなきゃ良かったと半べそをかいた。
「だから帰ったら全力で三津の機嫌を直すんだ。いいな?」
「御意。」
そこは協力し合おうと二人で同意したところで恐る恐る家に戻る事にした。
「ただいま〜……。」
控えめにからから戸を開けて二人して中の様子を窺った。すると三津が小走りで玄関まで出迎えに来た。
「お帰りなさい。思ったより遅かったですね……全部してきたの?」
「しないっ!君の口からそんな発言聞きたくないっ!
遅くなったのはちょっと鴨川の方まで行ってきたから……さっきはまた下世話な話をして悪かった。」
桂がそう言って頭を下げたのに合わせて入江もきっちり頭を下げた。
「もういいですよ。それより気付いたんですけどね?うちって布団が私と小五郎さんの二人分しかないですよね?」
「あぁ……それなら私が九一と寝るから君が一人で使いなさい。」
「はい,そのつもりやったんですけど。」
『そのつもりだったのか……。』
『そのつもりやったんや……。』
桂と入江は三津を怒らせてしまった事を激しく後悔した。
そして以前の三津なら“二人にそんな事させられません!”って言ってくれたのに……と肩を落とした。「そのつもりやったんですけど,流石に殿方二人には狭いやないですか。だから布団を引っ付けて三人川の字がいいと思ったんですけどそれでもいいですか?」
どうでしょう?と首を傾げる姿に二人は首を激しく縦に振った。
「じゃあそうしましょう。夕餉はお味噌汁作りますんで待っててくださいね。」
三津の機嫌はすっかり直っているようで笑顔で居間に引き返した。
二人は助かったと胸を撫で下ろして嬉々としながら草履を脱いで家に上がった。
そこで入江はちょっとの間硬直して膝から崩れ落ちた。
「どうした急に……。」
「いけん……また邪な考えが出てしまって……。
三津が背中流してくれんかなぁと期待してしまって……。限界通り越してしまった私はもう駄目です……。そっちにしか思考がいかん……。」
「重症だな……。」
いつも感情を見せず腹の中が読めない入江のこんな姿に同情せずにはいられなかった。
「何で木戸さん平気なん!?さてはどっか他所の女と!?」
「くだらん言いがかりやめろ!三津に聞こえたらどうする!!」
桂は二人の間で聞こえるような声で怒鳴って大声出すんじゃないと入江の口を塞いだ。
入江は口を塞ぐ桂の手首をしっかり捕まえて引き剥がした。
「前までやったらこんな欲出たら適当に発散出来てたけど……今は三津裏切りたくないぃ……。木戸さんこの手貸してぇ……。」
「は!?断る!!それも三津に対する裏切りじゃないのか!?」
「でもこのままやとまた三津怒らすかもしれんやないですか……。サヤさんに命狙われる可能性あるやないですか……。でも木戸さんが手ぇ貸してくれたら二人の命は助かるんです……。」
「自分で何とかしろ。この変態が。」
「何で煽ってくるんです!?我慢しようとしてるのに!!」
「じゃあ……私が外に出とくんで中でゆっくりどうぞ?」
その声に二人はビクッと肩を揺らしてゆっくりとその声の方に目だけを向けた。
「せっかくお茶を淹れたのに全っ然入って来ないから何してるかと思えば……。」
三津からすれば男二人で手を取り合ってるように見えた。自分達を白い目で見ている三津に二人は顔面蒼白。
「三津,誤解だ。私は何もしてない。したくない。邪な事も考えてない。」
桂は両手を上げて身の潔白を訴えた。
「あ!?卑怯や!!私をその気にさせといてっ!!」
入江はずるい逃がすかと桂の腰に腕を回して縋りついた。
「やけぇ誤解生む行動と発言やめり!!お前が勝手に盛っとるだけやろうがっ!!俺は巻き込まれたくないそっちゃっ!!」
桂は腹の底から本音を叫んだ。