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川遊びは、戦の際に敵

川遊びは、戦の際に敵、またはこちらが川を渡る時に備えて、川の長さや深さを事前に知っておく為だったようじゃ」 「…まさかそんな…」 三保野は思わず、森の中で兎を追いかけている信長に目をやった。 「くそ!ちょこまかと動きおって!今に見ておれ、この信長が必ずやぬしを射抜いてみせるぞっ」 弓を構える信長は、必死ながらも、どこか愉しげな微笑を湛えながら森を駆け抜けてゆく。 三保野にはどう見ても“かぶき者”と言わんばかりの形(なり)をした若者が、顯赫植髮 無邪気に小動物を追い駆け回しているようにしか見えない。 「…あれも、戦への備えだと言われるのですか?」 三保野は、思わず指をさして訊ねた。 「そうじゃ。戦場(いくさば)で正確に敵を射るためのな」 「されど姫様、弓の稽古ならば、わざわざ森などに来なくとも出来ましょうに。 的(まと)を使っての稽古ならば、城内で幾らでも──」 三保野の言葉を聞いて、濃姫はふふっと上品に笑った。 「そなた、戦場で闘う武士たちが、弓矢の的のようにジッとしていると思うのか?」 「あ…」 「兎も猪も、森の生き物たちは皆、殿の前では戦場の敵となるのじゃ。少なくとも訓練中はな」 濃姫はどこか得意になって言うと、やおら踵を返し、元来た道を戻り始めた。 「姫様、いずこへ !?」 「寺へ戻る。これだけ見ればもう十分です」 そう言って如何(いか)にも満足気な表情を浮かべると 「それに何やら雲行きが怪しい…。天気が崩れる前に帰らねば」 濃姫は天候を気にしつつ、三保野とお菜津を連れて、速やかに萬松寺へ戻っていった。 濃姫一行が那古屋城に帰って来た頃には、時刻は夕七つ刻(16時)をとっくに過ぎていた。 朝の五つ半に城を出たのだから、普通の参詣ならば、正午には城に戻って来ていてもおかしくないはずである。 しかしもう既に夕方──。 「姫様、如何致すおつもりです? 御老女の千代山様に、こんな時刻になるまで戻らなかった理由を訊ねられたら」 三保野は奥御殿の廊下を歩きながら、不安そうな面持ちで姫に訊ねた。 「その時はその時じゃ。和尚様との話が思いの外(ほか)長引いて…とか何とか言えば良い」 「無茶でございます、そのような苦しい言い訳。 寺の外で待たせていた供奉の者たちですら、一向に本堂から出て来なかった私共を怪しんでいたのですよ」 「ならば他の言い訳を考えれば良いではないか。お菜津、何か適当な言い訳はないか?」 「急にそう申されましても…」 お菜津が狼狽えて言うと 「──お方様っ!」 廊下の前方から、険しい表情の千代山が足早にやって来た。 濃姫は“まずい”といった顔をして、思わず踵を返そうとする。 「どちらへ参られまする!?」 「……いえ…」 「こちらはずっとお戻りを待っていたのでございますよ!今まで何をなさっていたのです!?」 「……お、和尚様とのお話が…少々長引いてしもうてな」 濃姫は三保野やお菜津の顔をちらちら見ながら、先程の苦しい言い訳を口にする。 すると千代山は 「左様でございますか。とにもかくにも、ご無事でよろしゅうございました」 おざなりと言った感じだが、姫の言葉を素直に受け入れた。 濃姫は驚いたが、どうやら千代山には他に気にかかることがあるらしい。 「それよりもお方様、すぐに御座所へお戻りになられ、侍女たちに全ての雨戸を閉めるようにお命じ下さいませ」 「何故ですか?」

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