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「姫様、今宵はもうお休みなされませ

「姫様、今宵はもうお休みなされませ。この分では、殿はお渡りにはなられますまい」 「…ああ。そうかもしれぬな」 濃姫はしんみりとした風情で呟きながらも 「じゃが、それでも構わぬ。私がお渡りを願ったのですから、このまま殿をお待ち申し上げます」 と、昂然たる態度で述べた。 「しかし、本日姫様はお疲れで…」 「平気じゃ。私のことは気にせず、そなたは先にお休みなさい」 気遣って言うものの、朝から信長の後を追い回っていた濃姫の身体は、三保野の言う通りすっかり疲れ切っていた。 少しでも目蓋を緩めれば、それこそ泥のように眠ってしまいそうな程だった。 けれど姫は、掌に爪を立てたり、下唇を噛んだりして懸命に睡魔を振り払った。 何としても今宵中に自分の気持ちと覚悟を、信長に伝えたかった。https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202406260000/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/7098318394cc4fecfa5fde17891a4ee8 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/06/27/200653?_gl=1*1yk3gc8*_gcl_au*MTY2OTkwNTc4OC4xNzE4OTcyMTIz    一番思いが強い内に。 生半可な熱意では、到底あの夫の信頼を得ることなど叶わないだろうと、濃姫は思い及んでいた。 「姫様…、何と健気な…」 何とか信長に寄り添おうと努める姫の姿を見て、三保野は思わず胸を熱くした。 「民を装おって街や森へ赴き、挙げ句、恥も承知の上で自ら夜伽のお誘いまでした姫様が、何故このような仕打ちを受けねばならぬのでしょう…」 「申すな、三保野」 「いいえ、此度ばかりは言わせていただきます──。今日のことで、殿がただのうつけ者でないことは三保野にもよう分かりました。 されど、お輿入れから既に幾日も経つというのに、姫様に対して全くご関心を示されないというのは如何なものでしょう? いくら政略の上の婚姻とは申せ、贈物をするなり何なり、多少の気遣いくらいお見せになっても良いはずでございます」 「……」 「ほんに、殿は非情なお方でございますなぁ」 「──誰が非情じゃと?」 突として背後から響いた声に、三保野はぎょっとなる。 慌てて振り返ると、白い夜着に着替えた信長が、狐のような細い目をして寝所のとっつきに佇んでいた。 「と…と、殿っ!!」 三保野が急いでその場に平伏すると、濃姫も信長の方へ向き直って、畳の上に三つ指をついた。 「堤防の修理に思いの外時間がかかってな。四つ半過ぎになってようよう解放されたところじゃ」 「それはまことに、ご苦労様でございました」 淡々とした面持ちで濃姫は額づく。 「言うておくが、儂は竹千代からそなたの言伝てを伺い、休む間もなく戻って来たのだぞ!? そんな儂のどこが非情なのじゃ!?」 「そ、それは姫様ではなく私の落ち度でございます!まことに申し訳ございませぬ!!」 三保野は狼狽えつつも、声を大にして謝した。 「わざわざ湯あみまでして参ったのじゃぞ!?」 「重ねて!お詫び申し上げまするっ!」 「…いや、まぁ、湯あみは雨で身体が冷えていたからじゃが……。ともかく、不用意な発言は以後慎むよう」 「肝に銘じまするっ」 三保野は額を畳の縁に擦り付けるようにして、懸命に詫びると 「…では、私はこれにて…。失礼つかまつりまする」 信長の叱責から逃れたかったのか、はたまた彼と姫を早く二人きりにしてやりたかったのか、三保野は一目散に寝所から去って行った。 外から戸襖が隙間なく閉められると、信長は長い嘆息を漏らした。 「変わった侍女じゃ。──あの者がああなのは、きっと仕える主人が変わり者だからであろうな」 どこか嘲るような目付きで、濃姫を見据えた。 「私が変わり者だと、そう仰りたいのですか?」 「違うとは言わせぬ。儂が褥を共にせぬことを分かっていながら、そなたはあえて寝所へ参るよう誘うて来た…。どう考えても変わり者の所業じゃ」 「されど殿は、こうして来て下されたではございませぬか」 「褥を共にせぬとは申したが、寝所へ参らぬとは申しておらぬ」 「まぁ、左様な屁理屈を」

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